東北大学発プロジェクト、自動充填式ヘリウムバルーンを津波避難に活用
東北大学発プロジェクト
自動充填式ヘリウムバルーンを津波避難に活用
東北大学の学生らが進める津波バルーンプロジェクト(代表:成田峻之輔・東北大学大学院工学研究科博士2年)は、津波発生時に避難施設の目印となる「バルーン型避難標識」の自動掲揚システムの社会実装に向けた取り組みを推進している。同プロジェクトで実用化に向けて開発している技術は、準天頂衛星システム「みちびき」の信号を受信して空気より軽いヘリウムガスを自動充填し、上空にバルーンを掲揚する仕組みだ。極めて短時間での退避が求められる津波からの迅速な避難行動を支援し、犠牲者を減らすことを目的としている。
政府が発表した南海トラフ巨大地震の被害想定では、津波による死者が最悪21万5000人に及ぶとされるが、早期避難が徹底されれば約8割を回避可能とのシミュレーション結果がある。地震発生から最短10分以内で津波が到達するとされる地域は60市町村以上にのぼる。プロジェクト代表の成田峻之輔氏は「地震発生直後すぐに到達する津波は『極近地津波』と呼ばれ、多くの人が1分1秒を争う切迫した状況下に晒されることが懸念される」と述べる。
緊急的な退避先として全国に1万5000棟以上の津波避難施設が整備されているが、非常時にその位置を即座に判断することが難しいケースもある。
避難施設の目印となる「バルーン型避難標識」として掲揚
成田氏は「事前に周知しておくことも重要だが、偶然その地域に居合わせた来街者や観光客が避難施設の場所を把握している可能性は低く、どこに避難すれば良いのか分からない状態になる懸念は大きい。そこで、津波避難施設の位置を示す目印があれば、被害を抑制できるとの考えから検証を開始した」と振り返る。
目印としてヘリウムバルーンを採用した理由については、かつてデパートやスーパーなどで集客・宣伝用に使用されていたアドバルーンから着想を得たという。成田氏は「非常時に提示する情報は、シンプルで明瞭である方が伝わりやすい。上空に浮かぶ大きなバルーンは視認性が高く、わかりやすい目印として機能する。加えて、空気より軽いヘリウムガスを使用していることから、膨らむことで自律的に浮き上がる特徴もある」とそのメリットを述べた。
同プロジェクトは2022年に始動した。2023年1月に宮城県仙台市内の施設でバルーンの視認範囲検証を行った後、2025年度には多様な専門性を持つ学生メンバーが加入して開発体制を強化した。2025年2月には学内で昇降機能の動作試験を行い、翌3月には静岡県静岡市で県外初となる充填機能の実証実験を実施。同年7月に内閣および、QSS(準天頂衛星システムサービス)主催の「みちびきを利用した実証事業」に採択され、今年2月の完全自律掲揚試験へと至っている。
システムの核となるのはヘリウムガスの自動充填機能だ。みちびきが発信する津波警報の信号をレシーバーが受信すると作動し、自動充填されたバルーンが自律的に浮き上がる。今年2月に仙台市宮城野区の津波避難タワーで行われた実証実験では、避難場所を表すピクトグラムが描かれた直径約2・2㍍の緑色の球体バルーンを使用。1500㍑のヘリウムガスを充填した4本のガス容器を接続し、同時出力する構成を採用した。
成田氏は「信号を受信後、約90秒でバルーンが膨らみ、約40㍍の高さまで掲揚された。手作業で15分ほどかかっていた掲揚時間を2~3分にまで短縮できたほか、夜間での利用を想定したライトアップも正常に稼働することを検証できた」と成果を述べる。ヘリウムバルーンを活用した津波避難の誘導システムは、防災面で大きく貢献できる可能性を秘める一方、社会実装に向けてはまだ検証段階であり、解決すべき課題も多い。
2月の検証では充填速度を重視して4本同時出力としたが、成田氏は「充填速度はやはり4本の同時出力のほうが早いが、コスト面が1本の容器を使用するより高額になる」と指摘し、今後は一般的な7000㍑容器1本を使用することでコストカットを目指す。また、高圧ガスを使用した設備を長期間設置する観点から「保安」と「バックアップ体制」の確立も不可欠となる。沿岸部の避難施設に常設するため、塩害から容器や自動充填設備を守る対策や、激しい揺れの中でも確実にシステムが作動するかの検証が求められる。さらに、停電時や通信障害、システム異常に備えた代替手段としての強固なバックアップ体制の構築も課題となる。
実証実験の様子(同プロジェクトYouTubeより)
成田氏は「バルーンにガスを自動で充填し、浮かびあがる仕組み自体の検証は進んでいるが、防災で使うシステムである以上、高い安全性・確実性も求められる。加えて、導入・維持コストなどの課題もある。社会実装に向けてヘリウムガスの運用面や技術的な課題について、産業ガス関連企業などガスのスペシャリストの方々から知見を学ぶ機会を得るなど様々な業界とも連携しながらプロジェクトを進めていきたい」と展望を語った。

