Gaudi Clinical 、分散型細胞製造ユニット「KiOSK」を展開
再生医療の普及において、使用期限の短い培養細胞の品質を維持しながら医療機関へ輸送する工程が大きな課題となっている。この「ラストワンマイル」を解消するインフラとして、Gaudi Clinicalは既存ビルに設置可能なコンパクト細胞培養加工施設(CPC)ユニット「KiOSK(キオスク)」を開発し、2025年12月より本格稼働させた。同施設はクリーンルームや培養設備をパッケージ化した分散型製造拠点である。
一方で、インキュベーター用の炭酸ガスや凍結保存用の液化窒素など、細胞培養に不可欠な医療ガスを、大規模配管のない都市部のビルで安全に運用する体制構築が今後の社会実装における重要テーマとして浮上している。本稿では分散型製造インフラの概要や、新たな運用課題に対して求められる知見などについてレポートする。
分散型細胞製造ユニット「KiOSK」を展開
■再生医療における課題と分散型製造拠点の構想
再生医療やバイオ医薬品は新たな治療の可能性を提供する技術だが、細胞という生きた素材を扱う特性上、品質管理や輸送、医療機関側の設備負担などが普及の障壁となっている。 こうした背景について、副社長の柴田寛之氏は「法的な枠組みが整っても、インフラの欠如がボトルネックとなり、再生医療が全国の患者に届かない現状があった。細胞は一般用医薬品のような長期保存や長距離輸送が難しく、輸送時の振動や温度変化が品質低下リスクを招く。製造後数時間から数日という短い使用期限により、中央集約型の大規模工場から供給できるエリアは物理的に制限されていた」と説明する。
その上で柴田氏は「医療機関が従来型の細胞培養加工施設を導入するには多大な初期投資と専門職の確保が必要となる。そこで、安全性確保法の構造設備基準を満たす製造環境を最小単位でユニット化し、大量製造を担う中央集約型の拠点と、各地域に配置するKiOSKを組み合わせた分散型の細胞製造体制の構想を打ち出した」とKiOSKを開発した背景を語った。
柴田氏(中央)、林氏(左)、小島氏(右)
■第1号拠点の稼働開始
この構想のもと、2025年12月に東京都中央区・新日本橋に設置したKiOSKが細胞加工施設としての適合を取得し、第1号拠点として稼働を開始した。同施設は化学品専門商社であるKISCOの自社ビル内に開設されており、一般的なオフィスフロアの床に耐薬品性シートを敷設し、PRP(多血小板血漿)製造用(5×5m)とASC(脂肪由来幹細胞)製造用(3×5m)の2基のユニットが稼働。既に歯科や整形外科領域を中心とした約20の契約医療機関向けに細胞加工の受託サービスを開始している。 ユニット内部は安確法のクリーンルーム管理基準に準拠したゾーニングが施されている。
更衣などを行う前室(グレードC)を経て、調製室(グレードB)、そして細胞操作を行う安全キャビネット内(グレードA)へと清浄度が厳密に管理され、収容人数は安全キャビネットの数に対し1人ずつ入室可能となっている。
市場展開の視点から、新規事業本部キオスク販売チームの小島豪氏は「都市部で再生医療を実施する医療機関が増加傾向にあるため、商業施設やビル内でも使用できるユニット型の細胞製造設備は非常に重要だ。KiOSKは、既存のビルや商業施設の空間内に安全を確保した上で設置可能なレイアウト設計となっており、建築工事不要でその日から利用可能だ」と述べる。
柴田氏もコストと施工性のメリットについて「部屋全体をクリーンルーム化する従来の『要塞型』に比べ、KiOSKは初期投資を約3分の1程度に抑えられると試算している。既存の部屋に後付けできるため、早ければ数日で設置が完了する」とその優位性を強調した。
■筐体内の培養環境制御とガス運用の仕組み
KiOSKのユニット内には、安全キャビネットや遠心機、CO2インキュベーター、保存用の液化窒素を使用した凍結細胞保存容器など、組織の受け入れから搬送準備までの工程を完結できる機材が一式収められている。
現場での運用とガス設備について、製造流通オペレーション本部長の林昌弘氏は「KiOSKは巨大な空気清浄機のような役割を果たすため、ビルの一般空調との連動は不要だ。各ユニットは内部の清浄度を単独で維持しており、移設や増設が容易な設計思想により、段階的な投資が可能になった。複数ユニットの導入により、メンテナンス時でも他のユニットを使用できるため、細胞加工の事業継続計画(BCP)にも貢献する」と実務上のメリットを挙げる。
さらに運用環境にも触れ、「約20平方メートルという限られた空間で、従来の大規模な配管設備を持たない環境下でも、医療用ガス等を直接供給し、炭酸ガス濃度や温湿度を制御する仕組みが構築されている。これらを支える統合モニタリングシステムにより、細胞増殖、温湿度、空調管理のシステムが一元化され、ダッシュボードでのリアルタイム監視や、遠隔監視による観察工数の削減が図られている。今後は、インキュベーター用の炭酸ガスや保存容器用の液化窒素が充填されたシリンダー容器内のガス残量なども統合システムに組み込むことを検討していきたい」と林氏は説明した。
液化窒素を利用した細胞保存容器を備える
■ガスを含むユーティリティ設備や保守体制の構築が必要
一方で、小規模施設への導入拡大に向けては、ガスを含むユーティリティ設備や保守体制の構築が必要となる。システムの一元化は進んだものの、林氏は「実際の機器メンテナンスは機器ごとの対応が求められている。社会実装を進めていくにはメンテナンス面でも統合していく仕組みが必要。モニタリングしたデータからどの機器でどのような問題を起きているかを分析できるサポートできる体制も整備していく必要がある」と現場の現状を指摘する。 また、林氏は「屋内への炭酸ガスや液化窒素のシリンダー容器の直接設置やボンベ交換運用に対し、難色を示すビルオーナーも存在する。ガスのプロであるガスメーカーやディーラーが導入から保守、ボンベ設置の運用フロー構築に関与することが、施設側の保安に対する信頼性向上にも繋がる。」と述べた。
インキュベーターにはシリンダー容器から炭酸ガスが送られる
■今後の事業展開と全国展開へのロードマップ
同社は今後、1~2年をかけて新日本橋KiOSKで稼働実績の蓄積と運用モデルの確立を進める。その後はKiOSKの外販にとどまらず、細胞加工施設の設計・構築から運用設計、人材支援、モニタリング・バリデーション支援までを含めたワンストップソリューションとして、医療機関や研究機関、再生医療関連企業へ提供していく構えだ。
柴田氏は今後の展望について「この新日本橋KiOSKを起点に、まずは名古屋、大阪、福岡など需要の高い地域への展開を狙う。将来的には数百基規模での全国展開を見据えている。また、人の手によるバラツキをなくすため、培養工程へのロボティクス導入など、自動化技術の実装も検討していく方針だ。プロジェクト名の『KiOSK』は、トルコ語の『Koşk(あずまや)』に由来する。安全で高品質な細胞が必要な時にすぐに届く、再生医療の『ラストワンマイル』という新たな社会インフラを構築していく」と展望を語った。
(※本記事はメディカルガス5より抜粋、再編集したものです)

