時価4億円の乗り込み型操作ロボットを作った南鉄工所の溶接事業(溶接ニュース2024年1月16日号より)

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 世界が注目する国産搭乗操作型ロボット

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今、多くの注目を集めるツバメインダストリ製の搭乗操作型ロボット「アーカックス」

アーカックスは、各種SNSで「ついにガンダムが実現した」「実際に買うことも操縦することもできるロボットの時代が来るとは」「エヴァンゲリオンに乗れる日も近い」といった多くのコメントが寄せられ、国内外に多くの驚きを与えた。

劇中で、ガンダムを作っていたのは巨大軍事組織だ。エヴァンゲリオンを作ったのは政府の特務機関。つまり、両方とも超巨大組織によって生み出された。

そんな中、「ガンダムやエヴァンゲリオンのようだ」と国内外で話題となったロボット「アーカックス」のフレーム製造と組立を担当したのは、埼玉県春日部市の溶接事業所である南鉄工所。従業員7人の町工場である。

前回のポストでは、アーカックスの製造についてを紹介したが、今回は、職人特化型企業、南鉄工所の溶接事業を紹介する。

 南鉄工所の溶接

高さ4.5mの大型ロボット「アーカックス」のフレーム製造で、大きな注目を集めることになった南鉄工所。

そんな南鉄工所では、日常的な業務としては、「大手建設機械メーカーの特殊部品の製造」「部品の補修」「発明」などを生業としている。

強度が求められる建設機械は、主に9~25㎜程度の中・厚板の鋼が使われる。サイズとしては、3m~20mにもなる部品を溶接するケースが多い。

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大型を構造物を得意とする南鉄工所

 建設機器の特殊部品溶接

建設機械メーカーからの依頼の特徴は主に2つで「一品物が圧倒的に多いこと」「20mを超える大型サイズであっても誤差はプラスマイナス1㎝未満といった高精度な溶接が求められること」だ。

溶接作業において、精度を守るために重要となるのが、溶接のひずみとりだ。

溶接は金属を熱して溶融させて、1つにする技術のため、熱した時に必ず、金属がひずんでしまう。

特に南鉄工所で手掛けている大型な厚板構造物は、頑丈なため、同社では300tプレス機で加圧しながら、同時に加熱して、構造物の全体感を整えるという。

300㌧プレスで加圧しながら成形する建設機器2.jpg

300tプレスを使いながら溶接ひずみを調整

建設機械は大型・頑強・高精度な構造物のため、溶接で発生したひずみも、協力な力で抑え込まなくてはならない。当然、1人で行うことができない作業となるため、各種作業者の連携が欠かすことができないのが難しところだ。

 部品の肉盛り補修

肉盛り補修の難しいところは、破損した材料と、同じ材料で溶接すれば元通りになるというものではないところだ。

また、強固に溶接補修にしすぎると、溶接部の周辺部材が破損してしまうケースがある。つまり、一定量のじん性(粘り気)を持たせる工夫などが必要となるのだ。

「数多くある素材を、必要な箇所に必要な量を肉盛りするためには、『扱ったことがある素材の幅』が重要だ。こればかりは、溶接士の経験と勘所が重要となる(南伸吾社長)」。

 溶接町工場の発明

南社長は、「発明好きな父が創業したこともあり、特殊な機械を開発することもある」と話す。

南鉄工所では2023年4月に特許を取得した「重力開閉式ベッセル」を開発した。

従来、建設機械である「ベッセル(ショベルカーで掘り出した土などを運ぶ箱状の構造物)」は、外部からの動力または搭載した動力源により開閉してきた。

しかし、重力を利用して開閉することができる同製品は、わずか18Vのハンディバッテリのみで遠隔開閉が可能なため、開発してからというもの、建設業界や製鉄所からの問合せが後を絶たないという。

南社長は、「父は鉄道を走ることができるショベルカーを開発して、鉄道会社や保線業者から多くの依頼があった。父の時代の開発も、私の時代の開発も、いずれも溶接技術への深い知見が必要となるものばかりだが、習熟した溶接技術さえあれば、超大手企業からも注目される製品を開発することもできると、認識する良い機会になった」と話す。

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左:線路を走るショベルカー、右:開閉式ベッセル

 子供達から羨望のまなざし

今回製造協力したアーカックスをはじめ、同社から生まれた各種製品など、溶接技術を保有することで、関わることができる事業領域は幅広い。しかし、現実的には多くの溶接事業所では慢性的な人手不足を課題としており、就業を希望する人は減少する一方だ。

同社の南社長は、「当社も技能者不足は喫緊の課題の一つだ。しかし、今回のアーカックス製造に協力したことで、一つの光明がみえた」と話す。

具体的には、同社がアーカックス組立を行っている時に、近隣の小学校から50人程度の児童が見学に来た時のことだ。工場見学の最中に、集まった小学生からは「格好良い」「乗ってみたい」といった歓声だけでなく、「将来は、南鉄工所で働いて、ガンダムを作ることに決めました」といったコメントも多く集まったという。

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50人の小学生が目を釘付けにしたアーカックス

近年、多くの溶接事業所では、人手不足を解決するために多くの試作が打たれている。汚い、危険、苦しいの3Kイメージの払拭。男性の仕事という印象を払拭し、女性技能者が活躍できるようにする。自動化による省人化でのコストカットなど。

しかし、4億円という値段がついたアーカックスに対して、反響が予想以上に多かったことや、50人の小学生が歓喜する姿をからは、「面白みのあるものを作って感動させることができれば、技能者は増えていくのではないか」という本質的な解決策を信じてみたくなる。

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