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高校生溶接士を訪ねて:将来は水中溶接で活躍したい 陸上と水中での溶接経験で勘所つかむ

溶接高校生
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(「溶接ニュース」2025年11月11日付 1面より)

国内で溶接を学ぶ学生が出場を目指す大会のひとつが「全国選抜高校生溶接技術競技大会 in 新居浜」だ。9回目となった本年度は、日本溶接協会四国地区溶接技術検定委員会実技試験場(愛媛県新居浜市)で実施され、17道県36人が溶接技術を競った。同大会で被覆アーク溶接部門(手溶接)を制した村上慧さん(岩手県洋野町、種市高校)に話を聞いた。

村上さん.JPG(村上慧さん)
 

岩手県洋野町にある種市高校は全校生徒70人。村上慧さんが所属する海洋開発科は全学年31人で3年生は8人。溶接技能は海洋開発科の生徒全員が1年生から勉強するものの、競技会を目指して練習しているのは、現在3年生の村上さんと2年生の2人。さらに村上さんはバレー部に所属しており、バレー部が体育館を使うことができない、すき間時間で溶接の練習を行ってきたという。
 
村上さんは優勝について「本当にうれしい。日々、溶接の練習を続けられたのは当たり前のことではなく、溶接技能を指導してくださった麥澤孝一先生や、毎日自宅からの25キロを送り迎えしてくれた両親のおかげだ」と応援してくれた両親に感謝する。
 
村上さんが溶接する上で大切にしているのは「作品の溶込み」だ。特に作業序盤の1層目・2層目で、極力溶接を均一にしてスラグを取りやすくし、内部欠陥を防ぐとともに後工程で処理しやすく作業を進めることを心がけてきたのだという。
 
また、溶込みの状態を一定にするために溶接姿勢や電流値といった溶接条件を整えてきた村上さんは、最終的に「開先の状態を整える」ことが1番大切だと行きついたのだという。ルート面の状態や黒皮除去、ルート間隔を一定にすることを徹底したことで、作品精度に再現率が上がり、村上さんは「溶接技能が上達した」と感じるようになった。
 
全国大会で優勝できるほどの溶接技能を手にできた理由を尋ねると、村上さんは「環境に恵まれていたからだ」と話す。具体的には種市高校は人数が少なく、特に溶接大会を目指しているのは2人と少人数だ。相談するにしても、技術を研鑽するにしても情報量は限られる。一方で、情報が多すぎないからこそ、一つひとつ自身の溶接に適しているか否かを試すことができた。「取捨選択した結果、私に合った溶接条件が整ったのではないだろうか」(村上さん)。
 
また、村上さんは種市高校には全国的に珍しい「水中溶接」の授業があることも技能向上の理由に挙げる。

水中溶接の様子.jpg(村上さんが目指す水中溶接)

「水中溶接は、陸上よりも溶接姿勢を一定に保ちにくいこと加えて、『アークを途切れさせずに出し続けること』の難易度が陸上よりも遥かに高い。陸上・水中の両方の環境で溶接をした経験で、アーク長をつかむことができるようになった」(村上さん)。
 
村上さんは将来、潜水士として水中溶接の技能を使って働く道に進むことを目指している。小さい頃から海で遊ぶことが多かったため「海に関わる仕事がしたい」と思っていた村上さんは「水中溶接士という明確な夢を持てたのはうれしい。今後も、知識・技術の両方を兼ねそろえた技能者として成長したい」と話す。潜水士として働く村上さんの姿が目に浮かび、今から楽しみだ。

(「溶接ニュース」2025年11月11日付 1面より)

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