溶接は積み重ねた時間が反映される(高校生溶接士の将来像)
(「溶接ニュース」2025年6月24日付 1面より)
各都道府県で開催されている高校生を対象とした溶接技術競技会。溶接を学んだ各地の高校生が己の腕を競う競技会であり、溶接技能に青春を捧げた高校生がその後、どのようなキャリアを積んでいるのか注目されている。そこで本記事では、2013年に福島県高校生溶接技術競技会で優勝し、今も溶接士として活躍する國分圭介氏の今を取材した。
「プロの厳しさを最も痛感している溶接士の1人が私だ」と話すのは、福島市の溶接事業所である東開工業(髙野次郎社長)で腕を振るう國分圭介氏だ。國分氏は24年度の福島県溶接競技会を制して、県の頂点に輝いた。しかし、溶接士になってからずっと、華やかなキャリアを描けていたわけではないという。
当時、國分氏は福島県二本松市にある二本松実業(当時は二本松工業)に通う高校生として、13年に福島県では初開催となった「第1回福島県高校生溶接競技会」に出場し、最優秀賞に輝いた。國分氏は「機械システム科の先生に誘われて、深く考えずに出場した溶接競技会で優勝した時には驚いた。県のチャンピオンとして取材される機会もあり、少し舞い上がったのを覚えている」と振り返る。結果的に、國分氏は「溶接は私の天職なのだ」と考えて、東開工業に入社した。
(指導を受けるとともに一緒に腕を磨いた先輩社員と國分氏(中央))
入社してからも、「溶接の才能がある」と信じて腕を磨いてきた國分氏だが、才能を信じられなくなったのは、プロ溶接士が出場する福島県溶接競技会に挑戦するようになってからだという。
「初出場のときは、『初めてだから思うような成績がでなくても仕方がない』と考えていたが、2年経ち、3年経ち、成績が伸びない期間が続いたため焦りを覚えるようになった」(國分氏)。
東開工業は、橋梁・水門の製造を得意としており、30ミリ以上の厚鋼板を溶接する場面が多い。長年、人や物が行き来する橋梁などは高い強度が求められるため、超高難度な技能である「裏はつり」といった工程が多発する。ある日、はつりを成功させるためには欠かせない、欠陥を見つけて埋める作業に従事していた國分氏は、「今ある課題を一つひとつ埋めていこう」と考えたという。
具体的には、先輩溶接士の教えを真似してきたが成績には反映されなかったことを思い出し、「全ての指導を試して、自分に最適な条件を組み合わせていこう」と溶接への向き合い方を変えたのだという。ルート面、溶接する鋼板2枚のすき間、溶接姿勢、電流など。一つひとつ試してみては自身に最適な条件を探すようになり、結果的に昨年、國分氏は福島県の最優秀賞に輝いた。
6月6日に開催された25年度の福島県溶接競技会では、「前回は中板の溶接で、一度電気を切ってつなぎなおす工程で点数が伸び悩んだことを把握しているため、重点的に練習してきた」と心強いコメントを残す國分氏は、「溶接は、一定量、精通した人しか行うことができない作業であり、積み重ねた時間が技能に反映されるのが魅力だ」と話す。國分氏の活躍はまだまだ続きそうだ。
(「溶接ニュース」2025年6月24日付 1面より)