全国競技会出場・制覇が目標 様々な世代とつながる溶接が好き(高校生溶接士の将来像)
(「溶接ニュース」2025年6月17日付 1面より)
溶接研修や安全衛生教育などを実施している近畿中小企業溶接事業協同組合(大阪府摂津市)の仕事に携わるようになって4年目を迎えた。日頃の業務はJIS溶接評価試験の試験材料や曲げ試験片の製作といった機械加工のほか、溶接の師匠である同組合理事の榎本裕介氏や先輩らと海外技能実習生や工業高校生の技術指導にあたっている。
茨木工科高校3年生のとき、初出場した「大阪府高校生溶接技術コンクール」で見事、優勝した菅野氏。春先のJIS溶接評価試験(A-2F)を一発合格した後、12月のコンクール出場を志願し、競技課題(N-2F)の練習に没頭した。「まさか優勝できるとは思っていなかったが、茨木工科高校で初めての優勝者となったことがとても嬉しかった」と振り返る。学生時代から指導してきた榎本氏は「当時から抜群の溶接センスを持ち、物覚えも早かった」と評価する。
中学生時代、同校のオープンスクールで体験したビードonプレートの溶接が面白く、入学のきっかけとなった。「それまで溶接に触れる機会は全くなかったが、ものづくりに溶接は欠かせない大切な技術と知り、興味が沸いた」という。茨木工科の外部派遣講師だった榎本氏と出会い、その技量に魅せられ師事した。
就職活動も最初から「溶接」にこだわった。同じ中学・高校の一つ先輩で、昔から仲の良かった和泉神也氏が同組合に就職していたことにも「縁を感じた」そうで、入社を決めた。社会人1年目で挑んだ「大阪府溶接技術コンクール」では、被覆アーク溶接部門で堂々の2位となり、大阪府代表として「第68回全国溶接技術競技会・茨城大会(2023年11月開催)」に出場。10代の最年少選手として注目を集めたが、残念ながら入賞は叶わなかった。「大阪の大会ではまったく緊張しなかったが、全国大会は独特の雰囲気の中、力が出し切れず、あっという間に競技が終わった」(菅野氏)と、悔いが残るほろ苦い全国デビューとなった。
以来、リベンジを誓い毎年、大阪の大会に出場しているが、師匠や先輩の壁は高く、この2年間辛酸をなめ、今年も4位。「全国」という夢舞台には立てていない。それでも「もし競技課題が変われば、皆、横一線になり、僕にもチャンスが生まれる。これを好機と捉え、菅野流の溶接条件を見出しチャレンジしたい」と、いたって明るく前向き。この性格と行動力こそが同氏の魅力であり、最大の武器のようだ。
(菅野朋哉氏(近畿中小企業溶接事業協同組合))
6月からは和泉先輩とともに、「高校生ものづくりコンテスト溶接部門大阪大会」(6月22日開催)に出場する母校の後輩4人を指導する。菅野氏は「(榎本)裕介さんに教えてもらった
1.溶接棒の角度
2.溶接姿勢
3.アーク長
という溶接の基本ポイントをしっかりと伝授するとともに、各々の性格や特徴、癖にあった指導法で接したい」と言い、指導者としては「生徒たちが出場するマスターズ(N-2F)・ビギナーズ(A-2F)の両部門優勝」を、また自身は「全国大会出場・制覇」という大きな目標を掲げる。
榎本氏は「若い彼らが人を育てることの大切さや喜び、苦しみを学んで、有能な溶接指導者に育ってもらいたい。同時に菅野君自身、まだまだ若く、多くの伸びしろを秘めている。貪欲に新しいことに挑戦し、溶接技量を高め、経験を重ねることで知識の引き出しを増やしてほしい」とエールを贈る。
「根っから溶接が好き」という菅野氏。「溶接を通じ、様々な世代の仲間と話ができ、共感できる点がとても面白い。日々、『どうすれば、曲げ試験でワレない溶接ができるのか』を追求し続けている」と笑顔で語る。
(「溶接ニュース」2025年6月17日付 1面より)