岩倉溶接工業所 職人技と先端設備で挑む溶接の新境地 「ハンド型で更なる進化」

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「先端職人」育てる岩倉溶接工業所

ステンレスの薄板溶接を武器に業界内外から高い評価を得てきた岩倉溶接工業所(静岡県島田市、岩倉義典氏)。現在、食品・医療・航空宇宙と幅広い分野の依頼に応えながら、同社が掲げるのは「先端職人」という独自のコンセプトだ。

同社では、先端設備を職人が使うことで、設備の力だけに依存しない、超高精度な技術を担保し、数々の難加工を実現してきた。

本記事では、そんな同社の溶接事業と、溶接における職人技と先端設備の共存について取材した。

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先端設備と職人技の融合目指す岩倉社長

岩倉溶接工業所の事業

静岡県島田市の溶接事業所、岩倉溶接工業所では、ステンレス溶接を主軸とし、習熟したティグ溶接で食品・医療・航空宇宙など多様な産業の要望に応えてきた。

食品分野では0・8~1・2ミリ、医療分野では0・05~12ミリと、薄板溶接に強みを発揮し、確かな評価を得ている。

同社の特色は、競争力の源泉ともいえるレーザ加工機をはじめとした先端設備の使用法や加工条件を、近隣企業に惜しみなく指導・伝承している点だ。

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冷暖房が完備された働きやすい作業環境

本来であれば秘匿される情報をオープンにする理由について、岩倉義典社長は「当社は『先端職人』をコンセプトに掲げている。職人が先端機器を使いこなすことでしか到達しない精度こそが競争力であり、設備に依存していないことを示すためには、あえて使用法を公開するのがよい」と語る。  

その姿勢が信頼を呼び、同社には他社が解決できなかった高難度の案件が集まるようになった。「『加工に困ったら岩倉溶接工業所』と相談してくださる企業が増え、依頼件数は右肩上がり。単価を下げずに受注できる状況になっている」(岩倉社長)。

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職人によるティグ溶接

現在、同社の溶接士を先端職人たらしめているのが、手作業で扱うハンド型ファイバーレーザ溶接機「VーHF(ウェルケン社製)」シリーズである。

長尺の直線溶接や1000分の1ミリ単位の微細溶接で特に力を発揮し、新人でも高精度な溶接ビードを引くことが可能だ。また、熟練したティグ溶接士がハンド型を扱うことで、超微細から大入熱まで幅広く対応することができ、設計段階から組み上がりを見据えた加工を高精度で実現する。

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ハンド型によるレーザ溶接

従来、同社の溶接士は熱ひずみを逆算して、加工工程を組んできたため、「ひずみがほとんど発生しないレーザ溶接」を取り入れることで、設計から組み立てまでの一連の工程で、大幅な生産性向上に成功しているという。

同社は1980年代から炭酸ガスレーザを導入し、2000年代にはヤグレーザを、現在はファイバーレーザを活用するなど、早くからレーザ技術の導入に取り組んできた歴史を持つ。

岩倉社長は「設備も職人も、長時間かけて自社に最適化されてこそ競争力となる。設備は職人を育て、職人は設備を生かす。両者は対立せず高いレベルで共存できる」と強調する。

「技術に仕事を奪われる」という声が聞かれる昨今だが、同社は「職人と先端設備の共進化」によって新たな価値を創出し続けている。

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先端設備と職人技が可能にする幅広いものづくり

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