都筑ケ丘溶接 焼き芋がつなぐ溶接の輪 「どちらも火入れが大切」
米ドジャースに所属するプロ野球選手、大谷翔平選手の活躍で、すっかり定着した「二刀流」というキーワード。
従来では考えられない二つのことで結果を残す人・企業が注目される中、多くの注目を集めているのが「溶接」と「焼き芋」で愛される横浜市都筑区川和町の都筑ケ丘溶接(根本林太郎社長)だ。
今回のWelding Mateでは、「どちらも火入れが大事」とする同社の取り組みを取材した。
横浜市都筑区川和町の都筑ケ丘溶接では、根本社長自らが溶接士として腕を奮い、確かな溶接技能で幅広い依頼を獲得している。
そんな同社がユニークなのは、ほくほくと崩れやすく、ほど良い甘さ、確かな食感と香りを口いっぱいに残す皮が特徴である、鹿児島県・種子島産のサツマイモを使った「焼き芋屋」として地域に胃袋を掴んでいるところだ。
根本社長は「立て込んでいた溶接の依頼が一巡し、ちょうど手があいている寒い日に、近隣に住む知人から安納芋をもらい、その美味しさに感動した」と当時を振り返る。
試しに焼き芋にして食べてみたら、その香りに誘われて、近隣の人が集まるようになり、「焼き芋店舗」となったのだという。
結果的に、100グラム250円の焼き芋を通じて、近所の板金事業所などから「難しい溶接工程を手伝ってほしい」といった仕事が舞い込むようになった。
そんな同社が事業の軸にしているのが、鋼配管を使ったケミカルフィルターの製造だ。4・5ミリ鋼板の丸パイプを切断・溶接・塗装し、管内にケミカル材を封入することで製品となる。
半自動溶接で接合していく溶接工程は、仮止めし、微細な凹凸がある切断面を接合するにあたり、微妙に溶接棒を押しあてる力を変えながら進めていくという。
大手重工業から独立して2021年に都筑ケ丘溶接を立ち上げた根本社長は、「企業から依頼される複雑な溶接工程、高難度の溶接は、当然、溶接士の腕のみせどころだ。しかし、溶接は習熟していないと簡単な接合工程であっても仕上げるのが困難な構造物もある。独立してみて、改めて『気軽に仕事を依頼できる溶接士』を求める声も一定量あるのだと気づかされた」と話す。
企業から届く高難度な溶接工程を手がける傍らで、焼き芋がつないだ縁を、持前の溶接技能で深めている根本社長。友人宅を訪れるように、気軽に同社を尋ねる人が増えてきたと話す根本社長の笑顔には、しっかりと地域で「溶接の輪」が広がっているのだと感じさせる頼もしさがある。