山形県(株)ムラヤマ 25度の狭開先溶接で競争力向上 「ホワイトな溶接事業所もあるんだぜ」
レベルアップを続ける溶接事業所
(株)ムラヤマ
時には魔法が使えるようになり、時には関わることができるクエストが増えるといったテレビゲームの「レベルアップ」に心躍った経験は誰にでもあるだろう。
一方、現実の成長は実感しにくい。
そんな中、山形市鋳物町の溶接事業所ムラヤマ(村山功社長)は、着実に成長を続けることで注目を集めている。
今回のWelding Mateでは、東北地方で存在感を増す同社の取り組みを紹介する。

順を追ってレベルアップする
(株)ムラヤマ

1926年創業で100周年を控えるムラヤマは、山形県内で最大クラスの鉄骨ファブリケータだ。
山形市と酒田市に工場を構え、いずれもHグレード認定(国土交通省が設定している5ランクの2番目)を取得。量工場ともに月産800~1250トンの生産能力を持ち、工場作業者約90人のうち溶接士は80人ほど。
うち16人が溶接の最難関資格とされるAW資格を保有し、溶接技能が事業の柱となっている。
同社が特に注目されているのは「狭開先溶接」だ。
一般的な開先角は35度・ルートギャップ7ミリに対し、ムラヤマは25度・5ミリで同強度の溶接を実現。

36~40ミリの厚板を使用する大型建築が依頼の中心である同社では、溶接量を約3割削減することが可能で、カーボンニュートラルにも貢献する技術として高く評価され、ゼネコンからの依頼も増加している。
製造部の渡邉誠部長によれば、「狭開先溶接は20年前に研究を開始し、当社では溶接士の手作業を『溶接ロボット石松』で定量化した。定量化によって200件以上の狭開先溶接による鉄骨製造を実現しており、これだけ狭開先溶接の工事に関わっている鉄骨ファブは稀だ」という。

この技術力の背景には、時代に応じた地道な取り組みがある。同社では、まず、資格取得費用などの支援を行い、有資格者を増やした。AW資格や技能五輪への挑戦は100万円単位の高額な費用がかかるが、積極的な技能者育成が評価され、多くの依頼獲得に直結した。
次に、事業の核となる溶接士の離職防止のために同社では労働組合を設置。これもあり平均的に年間135日以上(有休込)の休日を実現し、雇用の安定と応募者の確保に成功した。

これは自社業務を細分化し徹底的に把握、2工場に平等に仕事量を振り分ける仕組みがその支えとなっている。同社では3ヵ月で区切りながら年間の仕事量を常に把握し、正確に振り分け、休暇を平等に振り分けているという。
業務量・工数の徹底した把握に成功した同社は、狭開先溶接の技術開発に人的リソースを割くことが可能になり、AW有資格者に加え、もう一つの競争力の柱を築いた。鉄骨ファブとしての存在感が高まった同社は、現在、東北だけでなく、首都圏の再開発案件も受注するようになっている。

右・渡邉誠部長
渡邉部長は「生産量の増加、技術力強化、他ファブとの連携など、今後の目標も挙げればキリがない」と語る。
さらなる成長を遂げるムラヤマからは、今後も目が離せない。