2013/05/14

溶接女子 (2)  北村鉄工所


北村鉄工所
木村裕美さん

大きなアークで溶接を実感
豪快な溶接を繊細に、自然体が大切


 半導体製造装置などの製造を手がける北村鉄工所(京都市南区、北村征志社長)で、木村裕美さんは機械部品の溶接施工に携わる。ティグ溶接の中では厚物の部類に入る圧力機器の溶接に従事し、ポンプ部品などを製作。女性特有の繊細な仕事ぶりに周囲からの信頼は厚い。
 祖母の影響で、幼い頃から手作りの品物に慣れ親しんだ。家で購読していた「おしゃれ工房」の手芸を、見よう見まねで作ったのが最初のものづくり体験だ。昔から手作りに愛着があったが、まさか自分が将来溶接に携わるとは想像していなかった。
 しかし、子供の頃に工事現場のシートの裏で「バチバチ」と言う音に興味をそそられたことを覚えている。就職活動中に受けた適正検査では、なぜか「造船関連」という結果が出た。その時は首をひねったが、「今思えばつながっていた」かもしれない。
 短大卒業後に勤めた衣料系商社を退社し、滋賀県の職業訓練支援センターに入校し溶接コースを受講。そこで初めて溶接を経験した。「幅広い年齢の受講者がいて、みんなすごく親切にしてくれた。学校生活の中でも一番楽しかった思い出かもしれない」と振り返る。仲間と一緒にものづくりをする雰囲気が自分の性分に合った。  同センターからの紹介で北村鉄工所に入社した。入社後すぐに目にした溶接が今でも忘れられない。先輩の松本恭幸氏が圧力機器の円周を炭酸ガス溶接していたが、スラグが自然とはがれ落ちる内側から、今まで見たことがないきらめくような美しいビードが顔をのぞかせた。「あんなにきれいなものができるとは」。衝撃だった。「私もそんな溶接ができるようになりたい」。溶接に魅せられるきっかけだった。
 入社以来、一貫して圧力容器の溶接に携わっている。現在はポンプ部品の「冷却用ジャケット」と呼ばれる圧力容器のティグ溶接を担当している。ティグ溶接でも薄板ではなく「重溶接」と呼ばれる中厚板の分野だ。厚みは6ミリから19ミリにもなる。手がけるポンプ部品の重さは大きいものでは1トンに達し、「クレーンで転がしながら溶接する」のだという。
 愛用のティグ溶加材は通常より50センチ長い1・5メートルのものを使っている。「仕事が速くなるし自分も楽だから」。先輩の松本さんが、余った溶加材を溶接で継いで使っていたのをヒントにした。
 大電流で大きな火を出す「これこそ溶接」という仕事が好きだ。脚長が広いほうがビードも目立つ。ビードがきれいにできたら自分もうれしいし、ほめられればもっとうれしい。それが技術向上の刺激になっている。  ビードを見ればその人の性格がわかると言う北村社長は、「大電流域の荒々しい溶接の分野で木村さんは丁寧で繊細なビードを置く。男にはまねできない」と評する。豪快な溶接を繊細に行うところに、女性独特の感性があるのかもしれない。
 北村昭子会長は、「普段見ていると、木村さんは男性的な部分ととても女性的な部分が両方あるように感じる。職場で男性の中に自然に入っていったり、お酒の飲みっぷりがよかったり。そうかと思えば手作りのお菓子を配ってくれるようなところもある」と明かす。
 同会長はこう続ける。「溶接の現場は今も男性が多いのが実情。でも女性だからといって区別されるのがくやしいのは痛いほど分かる。ただ、今後は女性もこの分野に進出するべきで、木村さんの姿を見て感化される人も多いはず。女性も知恵を出すことで、今までにない仕事が生み出せると思う」と期待を寄せる。  木村さんは「確かに以前は男の人に負けたくないと思うこともあった。でも最近は肩の力が抜けて、頼れる部分は頼って得意な部分で貢献できたらいいかなと開き直っている」と心境の変化について話す。より自然体に近くなることで発揮できる力もあるに違いない。
 今後の目標は京都で行われる溶接技術競技会で優秀賞を獲得すること。昨年は惜しくも3位で「女性溶接士奨励賞」だった。「冷静さを心がけ普段の実力が発揮できれば納得できるはず。今年は奨励賞ではなく入賞したい」。しとやかさの中に芯の強い光が一瞬目にともった。

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