構造物を支える新溶接技術/カーボンニュートラルの時代へ

22/01/04

 カーボンニュートラル(実質炭素ゼロ)が世界の潮流になってきた。溶接技術も、この流れを下支えする。昨年、英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は世界から高い注目を集めたが、この中では2050年までに二酸化炭素排出量をゼロにするため、30年までに世界全体で45%削減(10年比)する重要性が強調された。日本でも30年に46パーセントの削減(13年比)を目標に掲げている。この目標を達成するためには、風力発電、水素利用、EV(電気自動車)などの大型構造物の開発・製造・建設が不可欠であり、そこには新たな溶接技術が活躍している。新時代の構造物に適用する溶接技術を追った。
■期待高まる洋上風力発電
 海に囲まれる日本。洋上風力発電が再生可能エネルギーの切り札として浮上している。
 日本近海は水深が深いため、海底に杭を打ち込む着床式ではなく、海に浮かぶ「浮体式」が求められている。そこで造船で培った技術の応用が期待されている。
 発電効率を上げるには風車を大型化する必要があり、必然的に鋼材は厚くなる。現状、風車などの多くの部材は欧州企業が席捲しているが、日本も負けじと国と民間企業とで開発が進む。
 浮体式洋上風力発電では、その土台となる浮体構造部分に高強度で溶接性に優れたEH級鋼(KE36、KE47)が適用され、板厚は80?程度になる。この厚板を効率よく溶接するため、サブマージ溶接を中心に、タンデムツインアーク溶接、多電極溶接、狭開先用サブマージ溶接など高能率溶接が適用。溶接パス数や工数の削減など施工効率の向上に寄与している。
 一方、風車のタワー部分については、海洋ドックでの建造が見込まれることから、予熱フリーで良好なじん性が得られ、高い強度を持つTMCP(熱加工制御圧延法)鋼を使用することで溶接時間や建造時間を短縮することが期待されている。
 また、洋上風力発電においてもタービン部分に1メガワットあたり15・3トンの銅が必要になるとみられ、今後の需要拡大に合わせ、EVと同様にブルーレーザ、グリーンレーザなどによる高効率の溶接方法が求められている。

■将来エネルギーの本命「水素」
 燃えても水しか出ない水素。将来エネルギーの本命と言われる。水素がエネルギーの一翼を担うようになると、セ氏マイナス253度の冷たい液体水素を運び、貯蔵し、使用するための金属が必要だ。
 そこで溶接技術の出番だ。昨年、液化水素を運ぶ世界初の運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を川崎重工業が建造した。船と受入基地の貯蔵タンク、それに配管類を数年かけて編み出した溶接工法で製作した。川重は今、この技術を活かし、さらなる大型の液水運搬船の基本設計に着手している。
 水素利用先の最右翼は燃料電池自動車(FCV)の燃料だ。液体ではなく、気体(ガス)で利用される。その補給拠点である水素ステーションはいま全国に150ヵ所程度が設置されている。まだで出来て間もないが、いずれ古くなる。そうなった時、修理が必要だ。その溶接を使った補修技術をナカテック(福井県坂井市)が実証試験で確立した。
 耐水素に強いステンレスの「HRX19」(日本製鉄)を使い、70メガパスカルに耐える溶接を人が行う技術だ。実証試験はHRX19に近いSUS316Lの鋼管をパナソニック製「500BP4」でティグ溶接して実施した。開先を36度にしてフィラーを加えると、良好な溶接が可能との成果を得た。昨年7月に公表している。ナカテックはこの技術を事業の一つに加えることを目標にしている。

■EVと銅の溶接
 排気ガスを出さない電気自動車(EV)で多く使われるのが、熱伝導率の高い銅だ。モータや電池に多くの銅が使われるためで、ガソリン車の3・5倍の銅が必要との試算がある(国際銅協会)。モータの溶接には現在、ティグ溶接が使われているが、EVの普及に合わせて生産効率の高い溶接方法が求められている。
 銅は光を反射するため、アーク溶接が難しい。熱伝導率の高さは、すなわち熱の拡散を意味し、溶け込みが不十分になるからだ。
 ここでレーザ溶接が登場する。特に光が反射しにくい(光吸収率の高い)ブルーとグリーンのレーザがこの数年の注目点の一つになっている。ブルーとグリーンのレーザは、赤色(赤外線)レーザと比べて7?20倍熱が吸収されるレーザ光を持つため、銅の溶接に適しているのだ。課題は出力(エネルギー量)が低さで、いま各レーザメーカが高出力化(高エネルギー化)を急いでいる。

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