大田区ボブスレープロジェクト・溶接技術で五輪目指す

21/11/26

 北京冬季五輪の開幕が近い。各競技の代表選考レースが本格化する中、東京都大田区の中小製造業者の工場が力を合わせ、ボブスレーの「そり」の開発を進めている。ソチ、平昌(ピョンチャン)大会で不採用に終わった経験を糧にしながら、今回もまた、日本代表チームへの採用を目指して挑戦を続けているという。そりの溶接を担当している五城熔接工業所(後藤智之社長)を取材した。
 五城熔接工業所は1?以下から100?以上と幅広い鋼板の溶接を手がけており、3代目である後藤社長も、現場で溶接をしている。ボブスレーのそりの製造は、2014年のソチ大会に採用されることを目指して11年から始めたプロジェクトだ。そのため、大田区の中小製造業者が集う「下町ボブスレーネットワークプロジェクト推進委員会」では10年間、ボブスレーチームから採用されることを目指し、トライアンドエラーを繰り返しながらそりを製造してきた。現在製造しているものは12号機になる。
 ボブスレーのそりは、自動車のようにボディは鉄で製造されている。タイヤを装着する代わりに氷の上を滑るアイスブレードを装着しており、特に溶接が必要なパーツは、アイスブレードを装着する「ランナーキャリア」だ。その他にも、ランナーキャリアと接合してそりが左右に動くのを助けるパーツ「ベアリングケース」や、微細な動きを可能にするそりの前後部分を繋ぐ「ジョイントパーツ」などがある。ランナーキャリアのパーツは板厚12?と10?の鋼板、パイプ材は3・2?、ジョイント部分は100?以上の厚板をティグ溶接で接合する。
 この溶接作業で技能者の勘所が求められるのは、モリブデン鋼の扱いだ。耐摩耗性や耐食性が期待できる素材である一方で、モリブデン鋼は割れやすい。そのため溶接作業後であっても自然冷却ではなく、200度程度であぶりながら温度を下げる工夫や、溶接作業の前にもバーナーで炙ることで割れを防ぐ必要がある。
 また、同社で溶接したパーツは次の工場で研磨・切削などの後工程が待っている。近隣20社程度が各社の技術を生かして、日程調整をしながら作業を進めているため、工程にミスなどがあると全体のスケジュールが狂ってしまう。
 後藤社長は「自社での作業を止めないことはもちろん、後工程の企業が作業しやすい状態を目指して作業に臨んだ。それには、割れがないことにくわえて、ひずみ取りも大切だ。例えばランバーキャリアのパーツは1箇所8?程度の溶接を行うが、一度に溶接するとひずみが1方向に出てしまう。そのため、反対方向からも同じ作業を行てひずみを打ち消し合うなどの工夫をして、8?の中でも6ー9回の短い溶接を繰り返して接合している。これは溶接士の手作業でなければ難しいだろう」と話す。
 また、「大田区は80年代には約9000工場があり、自動車・家電・航空宇宙部品などの、ものづくりを支えてきた。しかし、バブル崩壊・リーマンショック・後継者不足などで現在は半分以下になってしまっている。下町ボブスレーのプロジェクトを通じて、製造業の魅力をPRするとともに、技術力を訴求することで大きな案件を街ぐるみで獲得できるような環境を作りに貢献したい」(後藤社長)
 溶接だけでなく、切削・研磨・塗装など、近隣中小事業所の技能者が力を合わせて製造したそりは、組み上がると、トップ選手を招いて試走して空気抵抗の解析を繰り返す。多くの関連企業が無償で、部品約200点を製造しているという、ロマンで成り立つ同プロジェクトが、北京冬季五輪を盛り上げることには期待の声も多い。

TOP画面に戻る

お勧めの書籍