溶接現場のM&A、自社に足りない技術・技能を補填

21/07/15

 深刻化する人手不足など溶接現場は多くの課題を抱えているが、M&Aによって技術や技能を補填することで事業の安定・拡大につなげる溶接事業者もみられるようになってきた。M&Aによって溶接の前工程にあたるメッキ加工技術をくわえて業績を伸ばす三重県木曽岬町の溶接事業者セイワ工業(野見山勇大社長)と、熟練技能者を獲得して自社の自動化技術と合わせることで総合的な技術力を向上させた新潟県三条市のアベキン(阿部隆樹社長)の2つの事例を紹介する。
 30ミリを超える厚板鋼を被覆アーク溶接で加工し橋梁などを製造してきたセイワ工業は、距離の遠近を問わずに全国の事業者を対象としてM&Aを続けている。結果として2年間で売上は5倍、取引先は50倍に拡張することに成功。2019年に、同社の持つ溶接技術と相性の良いメッキ加工のプロフェッショナルである東栄コーティングを継承し売上を過去最高にした後、次々に関連事業者4社を継承した。
 同社がM&Aに取り組んだことで生まれたメリットは「受注の安定」と「業務領域の拡張」だ。特に昨年7月に千葉県柏市にある光誠産業を事業継承したタイミングで市場は大きく拡張したという。
 同社の野見山社長は「東海地方を中心に土木・橋梁部品の溶接加工を手掛ける当社と、関東に多くの顧客基盤と実績をもつ光誠産業が協業することで、商圏の拡大・提案力の増大した。遠方であればあるほど共通の顧客は減り、多くの新規顧客を獲得できる確立が上がる。これを自社の営業活動で獲得しようとしたら10年以上かかる可能性もある」と話す。
 また、商圏が変われば繁盛・閑散の波が異なるタイミングで訪れるため、グループ全体での案件が極端に少ない時期を減らすことができる。「当社がコア技術としている厚板鋼の溶接技術と溶接士を雇用している企業は少ない。溶接士は全国的に不足しているため、技術としても事業としてもシナジー効果を生みやすい(野見山社長)」
 一方、新潟県三条市にあるアベキンは同市にある近隣事業者のM&Aを17年から3社続けてきた。近隣事業を継承する最大のメリットは、流動的な人材配置が可能となることだ。1社では雇用しきれない数の人材を雇用し、適材適所で育成することができる上に、グループ会社を行き来すれば複数の技能を獲得した多能工を育てやすい。 
 また、同社では世界的な包丁ブランドのステンレスの溶接加工を手掛けてきた同市の本間技工を事業継承したことで、世界的なメーカーを顧客にくわえるとともに、育成に10年かかるとされる熟練溶接士を複数人獲得。ステンレス包丁における「柄と融点の異なる異種金属を接合する」など高難度の溶接に対応できる技能者を最大限生かすために、アベキンの得意とする溶接ロボットを導入して一部の業務を自動化したことで、生産性は約240パーセントにまで向上させた。
 結果的として、現在同社は複数の技術力による高精度・短納期が評価され産学連携の案件などを受注するようになった。新潟大学・新潟総合病院と連携して、頻繁な仕様変更や高い加工精度が求められる医療業界向けに「簡易トイレ」を共同開発・販売している。
 中小企業庁の調査ではM&Aの結果に不満がある企業の割合は31・7パーセント(2018年度)と3割以上が不満を持っているという結果がある。一方で、同庁の発表では25年に127万社の中小企業が廃業危機を迎えるとされており、M&Aは今後更に加速していくことが予想されている。近隣企業・遠方企業を継承するなど、自社の希望やビジョンを明確化することが第一歩であり、その他、両社が口を揃えて語るM&Aのコツは「必要以上に安く買おうとしないこと」と「継承した企業の人員をできる限り継続雇用すること」だという。

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