役割増す「社内溶接競技会」

21/04/02

 溶接事業所における大きな課題の一つに技能伝承があるが、同課題解決に向けた取り組みとして社内競技会に大きな注目が集まっている。社内競技会というと、全国の日本溶接協会指定機関が主催する溶接競技会の出場者を決めるための大会というイメージもあるが、社内大会出場選手の中には「(日本溶接協会指定機関による)県大会よりも、直属の先輩・上司がすぐ後ろで目を光らせ、仕事の成果をみせる意味合いを持つ社内大会の方が緊張する」と仕事の延長を強調する声も聞かれる。溶接士の教育の場として役割を増す社内競技会にスポットを当てた。
 秋田市川尻町に本社と2工場を構えるHグレードの鉄骨ファブリケーター千代田興業(藤澤正義社長)は、多能工育成の一貫として社内溶接競技会を実施。同社では多能工を「平均的な技術を複数持つ技能者」ではなく「卓越した個の技術を持ち得ながら技能の幅が拡張した一流の溶接士」と設定しているため、まず主軸業務である溶接技能を磨くという趣旨で開催するようになった。
 同社の溶接競技会が特徴的なのは、社員50人以上参加する大規模イベントだという点だ。溶接技能レベル向上のほかコミュニケーションの促進も目的の一つにしているため、溶接士以外の社員も参加する。顧客に影響がないように計画的に3~5日程度業務を止めて競技会を実施する。
 現場を統括する加藤課長は競技会の魅力を「専任溶接士と、専任ではないが被覆アーク溶接を日常業務で使う組立作業従事者が、ぶつかり合うことで前後1ヵ月ほどで大きく個々の技術力を高める重要なイベントだ。また、検査業務従事者は50個以上の作品を採点するにあたり、細かな尺度を定めた審査が必要になるため検査精度も向上する。熟練溶接士は毎年の競技内容を考えるにあたり、一通り自身で体験した後に、改めて言語化し、説明する立場となるため、指導力の向上にもなる。参加選手以外の社員も競技会の準備を手伝うため、溶接機器の設置場所や機器の名称、使用方法などを認識できる」と話す。
 北海道小樽市のHグレード鉄骨ファブリケーター大川鉄工所(大川晃弘社長)でも、積極的に社内溶接競技会を実施している。
 競技時間は15分間で、内容は日常的な基礎業務の一環でもある「H鋼に補強材(スチフナープレート)を炭酸ガス半自動溶接で接合する」というもの。専任溶接士だけでなく、溶接未経験者も参加しており、溶接未経験者は直前の1週間、毎日1時間ずつ練習して競技会に臨む。
 前回優勝した溶接班の小山昌夫氏は「社内に4人しかいない専任溶接士は勝つのが当たり前というプレスッシャーの中で、各自が技術力を教え合い当日を迎えるため、知見を深めることができた。また、未経験者に教えることで、溶接業務を指導する時に言葉足らずになっていた部分を見つけることができた」と話す。同社では競技会を技術力向上だけでなく、技能伝承にも役立てる。
 国内外に多くの事業所を持つ山九グループは5年に一度、国内5ブロック(東日本、近畿、中部、中・四国、九州)の代表選手にブラジル、サウジアラビア、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、中国の7ヵ国を加えてグローバル溶接競技会を実施している。
 専門技能である溶接は、同じ内容の教育・訓練で溶接士個々の技能を伸ばすことが難しく、海外事業所も含めるとさらに統一性を保つことが難しくなる。そのため、競技会による明確な基準で優劣をつけることで、それぞれの溶接に対する認識が向上するとともに、埋もれていた「人財(同社では人材を人財と表記する)」を見つけることができる。
 社内溶接競技会の主たる目的は技術力の向上だが、技術力向上にくわえ、技能伝承の迅速化、人財の再発見、社内コミュニケーションの活発化など、副産物も多いようだ。

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