宇宙へ挑戦、溶接の力

21/02/10

 溶接事業所と大学との産学連携によるハイブリッドロケット開発、国内ベンチャー企業によるロケット打ち上げ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のH3ロケットやはやぶさ2プロジェクトなど宇宙開発に大きな注目が集まるが、その開発を溶接技術が支えている。燃料タンクや配管にティグ溶接を適用した民間企業のロケットが宇宙空間に到達したのに加えて、ハイブリッドロケットのタンクにチタンを使用しレーザ溶接を適用する計画も進む。金属アディティブマニュファクチャリング(金属AM)を用いたロケットエンジンなど宇宙への挑戦に溶接のちからが大きな役割を果たしている。
 従来、宇宙開発における金属接合は、薄板の適用が多く、ひずみの少ない高精度の接合が可能なこと、多種類の合金が適用され、異種材料の接合にも対応可能であることなどの理由からろう付が多用されていた。しかし近年は溶接技術の発展により、レーザ溶接やティグ溶接、電子ビーム溶接(EBW)、金属AMなどの溶接に関連した接合技術の適用も進む。
 ロケットの開発から製造、打ち上げまでの事業を手掛けるインターステラテクノロジズ(IST)が2019年5月に打ち上げたロケット「宇宙品質にシフトMOMO3号機」は民間企業単独で打ち上げを実施した観測ロケットとして史上初めて宇宙空間(高度113・4キロ)に到達。同機に搭載する燃料タンク(直径500ミリ)はアルミの薄板(板厚4ミリ)をティグ溶接で接合。同機の配管にはステンレス製で板厚1ミリ以下のチューブやパイプを使用し、ティグ溶接を適用。「宇宙をもっと身近に、もっと気軽に。誰もが宇宙に手が届く未来を」という同社の企業理念により、広く普及しているティグ溶接を使用することでロケット開発に高いコストが必要というイメージを払拭し、採算性のある産業を目指すという意図があるという。
 次世代の燃料方式として期待されるハイブリッドロケットでは難加工材料である64チタンをタンク部に使用し、その接合技術としてレーザ溶接を検討する。昨年、ハイブリッドロケットの開発を行う高野敦准教授(神奈川大学)の研究チームとツツミ産業(堤健児社長)がハイブリットロケットに搭載するタンクをチタン合金「64チタン」で製作するための共同研究を開始した。精密板金試作を手掛けるツツミ産業は高度なレーザ溶接と塑性加工技術とを組み合わせることで60メガパスカルの充填圧力を持つ、64チタン製の高圧容器を開発。同技術を生かしてタンクを64チタン製にする計画。
 複雑構造体の製造コスト・工期の削減を目的に金属AMをロケットエンジンに適用するための取り組みも進む。三菱重工業とJAXAが開発と進めるH3ロケットではキーコンポーネントである1段エンジン(LE―9)に金属AMを適用する。同開発では、金属粉末を敷き詰めたパウダーベッドの必要な部分にレーザを照射・溶融して積層していく「パウダーベッド式金属積層造形(L-PBF)」と、母材表面に金属粉末を噴射しながらレーザを照射し、粉末を溶融・肉盛していく「材料噴射式金属積層造形(DED)」の2方法を採用した。L―PBFにより、従来は約500本の二重円管を寄せ集めて作っていた噴射器のコア部分を一体造形できるようになり、コスト削減に大きく貢献。上部主燃焼室出口マニホールドでは、DEDの適用による設計・工程の工夫によってコストの最適化した。
 はやぶさ2プロジェクトでクレータを作るために使われた衝突装置(インパクター)の製作には東成エレクトロビーム(上野邦香社長)が携わっており、同社が得意とするEBWが適用されている。
 米・スペースX社では現在、有人宇宙探査などを目標にした超大型ロケット「スターシップ」の開発に着手。その外板にはステンレス鋼の適用が検討されている。公開された試作機はステンレスの外板を溶接で接合しており、宇宙開発における溶接技術の重要性はますます高まりそうだ。

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