赤星工業,難溶接材に不可欠な知識・経験

20/06/22

 1946年に創業、現在は千葉県市原市に本社工場を構える赤星工業(伊藤広一社長、千葉県溶接協会会員)は、非鉄金属や特殊材料の溶接を専門とする。中でもアルミニウムの溶接技能を競う「全国軽金属溶接競技会」では多くの優勝者・上位入賞者を輩出する。同社はアルミニウム、チタン、ステンレスばかりでなく、銅、ニッケル、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、マグネシウム、銀、プラチナなど溶接難易度が高く、流通量の少ない工業用金属も積極的に取り扱う。これらの溶接に対応するスペシャリストの育成について取材した。
 同社では、4月に入社してきた新入社員に3ヵ月で徹底的に、業務で必要となる安全教育や各種技能資格の習得を教育の基本としている。7月には同社の基礎業務に必要となる溶接技術者の受験資格が得られるため、最短の受験日に申し込みを行い、8月には複数の技能資格を有する溶接技能者の卵へと成長する。
 資格の取得にこだわる理由は、同社が「溶接の良否は外観だけで判断することが難しいため、有資格者のみが業務に加わることで顧客の信頼を担保している」ためである。
 この結果、JISアルミニウム溶接の有資格者が70人、JISステンレス溶接の有資格者が59人、JISチタン溶接の有資格者が36人など、同社の従業員は検査係員を除く全員が溶接技能者であり、現在在籍する溶接士は合計で896種類の溶接資格などを保有している。
 同社で取り扱う金属素材は非常に種類が多く、難溶接材料も少なくないため、溶接にあたっては各金属の特性や施工条件を熟知する必要がある。また、発電所、化学プラント、造船、車両、半導体、各種実験・研究施設、橋梁関連など、顧客の業種も多岐ににわたり、それぞれの要求資格や検査項目、施工条件、品質レベルなども幅広く、かつ専門性が求められる。
 例えば、チタンとアルミのティグ溶接を比較すると、タングステン電極と溶融池の距離感は数倍異なり、溶加棒の挿入頻度も全く違う。アルミの溶融温度が600度であるのに対してタンタルは3000度と6倍ももの差があるためだ。
 同社では「新入社員が今後必要となる溶接の知識・技量の多さに戸惑うことがないよう、入社後の早い時期に公的試験を体験するようにしている。これにより溶接士としての自覚が芽生え、現場における知識や技能の吸収速度も向上する」としている。特に、同社が得意とする難溶接材料の溶接技術・技能を習得するには、現場である程度経験を重ねる必要があるため、新入社員は3ヵ月という短期間で入口に立てるようにしている。
 非鉄金属の市場は、使用される金属の変遷速度が速い。例えば同社では、10年頃まで苛性ソーダ/塩素の製造装置としてチタンとニッケルの溶接工事が受注の6割以上を占めていたが、2015年に受注はゼロになった。供給元である中国国内の設備過剰に起因しており、6割の工事量を失った。
 そこで内陸にあった工場を売却して富津市の公共ふ頭前に工場を建設し、新たに巨大なLNGタンカーのアルミ製タンクの工事を開始した。しかし、その2年後には、同工場で核融合研究施設向けのステンレス製シールドパネルを中心に製造するようになった。そして現在は、造船向けの二相ステンレスの溶接が業務の中心となっている。
 一方、市原市の本社工場でも電気自動車の普及にともなってリチウムイオン電池向けの銅箔などの溶接が増えてきており、チタンや銅についての溶接が増加傾向にある。このように最近の10 年間だけでも素材やアプリケーションが大きく移り変わってきておりいるように、同社にはその都度、ワークに使う素材や顧客の求める加工条件や品質・精度に対応していくことが求められる。
 材料価格が高く、失敗が許されないことや、溶接の難易度が高いことから同社が受注する仕事は、競合企業が少ない。ただ、同社が取り扱う非鉄金属は、一般的な鉄の需要の1万分の1程度しかないため、全て非鉄金属の溶接を受注する必要がある。そこでこれら様々な金属に臨機応変に対応できる溶接士を育成する必要がある。
 また、同社の溶接士には溶接技能だけでなく、図面を読み込み、組立の手順を考え、ひずみ防止やガスシールド向けジグの製作・使用までできる多くの技能を身に付けなければ一人前とは言えない。
 同社の浅見秀行取締役は「当社の溶接業務は板厚や条件が異なる金属や工具の知識はもちろん、30メートル級の大型構造物を溶接した後に、手の平サイズの小型製品の溶接を担当することもある。また、受注する仕事のほとんどが大量生産ではなく、1点物ばかりであるため、ロボット化には不向きである。そこで必要とされるのは、知識と経験に裏付けされた溶接士の技量である。多くの技術や技能を習得する必要があるため新入社員は苦労するだろう。しかし、それを乗り越えた先には、現代の溶接業務に欠かせない多くの技能を持つ溶接士として活躍できる道が拓けている」という。

TOP画面に戻る

お勧めの書籍