工場探訪ルポ

溶接現場ルポ 陸上自衛隊(土浦駐屯地)

野外で工場並みの品質
車両、火器整備に溶接フル活用

 陸上自衛隊は国内約160ヵ所に駐屯地を置き、約15万人の自衛隊員が常備自衛官として国防の任務に当たっている。自衛隊活動の中では、火器・車両・誘導武器・弾薬を整備する武器科職種で溶接が活用されている。今回、武器科隊員の教育訓練を行う陸上自衛隊土浦駐屯地武器学校(茨城県阿見町)を訪問。車両工作科教官の永田真也1等陸尉、永渕将司2等陸曹らから陸上自衛隊における溶接の役割と教育への取り組みを聞いた。
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 武器学校は1952年1月、東京・立川市で開校。その後、同年9月に土浦駐屯地に移駐し、今年で開設58周年目を迎える。駐屯地は霞ヶ浦の畔に敷地面積約41万平方メートルを有し、教育訓練施設をはじめ訓練場、庁舎・隊舎などを設けている。
 陸上自衛隊では、任務を普通科や機甲科など16職種に分けており、火器、車両、誘導武器、弾薬などの補給・整備・回収と不発弾処理を任務とする武器科隊員に必要な知識・技能の教育訓練を行うのが同校の役割だ。
 同校には全国の部隊から武器科技能修得のために隊員が派遣され、「年間約700〜800人の自衛隊員が教育訓練を受ける」(永田1尉)
 溶接の役割について聞くと、溶接は、工場および野外での車両や火器などの応急補修や射撃的、拒馬などの資材の作成に用いられており、その場で必要な物資を作成することから、「武器科は自衛隊の中での便利屋のような存在」(同)であるという。
 また、自動車の板金溶接やブルドーザーのブレード部の硬化肉盛溶接などの補修溶接が主な溶接作業となるが「有事を想定した訓練では、(外観の仕上げよりも)敵に破壊された装備品を、限られた時間内に使用できるようにすることが第一」(同)
 溶接教育は整備教育を実施する第2教育部車両工作科が担当し、鍛造工作における旋盤や鍛造などの技術要素の一つとして教育する。主な溶接方法は被覆アーク溶接をはじめ、ティグ溶接、マグ溶接となっている。とくに屋外での活動が多いことから、持ち運びが容易なガス溶接を活用するのが特徴だ。
 同校では基礎訓練を施すわけだが、陸上自衛隊では練成訓練として所属部隊で実際の溶接作業を行うことで日々溶接練度の向上を図っている。このため「(自衛隊員である以上)訓練は一生涯続く」。教育内容に目を向けると、ガス・電気溶接の法令・安全衛生などの基礎知識や基本作業が中心だが、技能訓練には野外訓練も含まれており、「雨天や地盤の悪さなど野外ならではの悪条件下で工場と同等の溶接ができるように教育している」。野外作業は、「日中は戦闘が行われ、溶接作業は夜間に行うことが多い。その際は、展開地に遮光を施した整備所を設置しての作業を行う」(永渕2曹)

溶接の実技指導を行なう永渕2曹


 しかし、満足に眠ることができず、「2泊3日」ではなく「2夜3日」と言われる野外訓練は大変過酷なもので、「ほぼ不眠不休の作業のため、幻覚が見えることもある。しかし、極限状態に陥ると、自ずと仲間同士が助け合うようになる」(同)
 このほか同校では有事の際、戦闘力を維持・回復する整備作業は厳しい環境下で行われ、体力・気力が重要となるため、「装備を使用する戦闘部隊の要望に応える『支援精神』と、自ら知識・技術の向上を図る『探究・研究心』を重視し、指導を行っている」(永田1尉)
 取材当日は、同校工場で実際に溶接教育が行われており、隊員が2人1組となり、被覆アーク溶接による薄板のすみ肉溶接に励んでいた。指導する畑山貴之1等陸曹によると、「隊員が現場で行う作業内容は配属されている整備小隊ごとに異なり、必要な技術は任務の中で練成する。このため、各技術の素養となる基礎を中心に浅く広い指導を心がけている」
 工場内には、訓練の一環で分解・整備する「教材」として現役の74式戦車などが駐車されていたが、これらの戦車は「整備のためだけでなく、有事の際には実際に使用される」(永田1尉)という。

溶接の教材としても活躍する74式戦車


 さらに、工作回収小隊で用いられる「1/2トン溶接車」もあり、実際に永渕2曹に実演していただいた。この溶接車は車両後部に直流アーク溶接機1台を搭載しており、野外での溶接活動に特化している。

溶接機を搭載した1/2トン溶接車
          

 座学による技術教育も行われており、「陸士鍛造工作課程板金課目」として、自動車外装の切り接ぎ溶接について隊員が真剣な顔つきで講義に耳を傾けていた。
 このように、自衛隊ならではの溶接教育が行われる武器学校。永田1尉に今後の課題と目標を聞くと、課題として「人材の確保」と「新技術への対応」の2点を挙げ、「工業高校出身の経験者など、技術者としてだけでなく指導者育成の面からも期待している。技術についても、日々進化が進む中、受け身にならずに新技術・新素材に対応する技術教育が重要だ」という。
 これら課題を踏まえた目標としては、「あらゆる環境下において溶接ができる技術者とその育成に携わる指導者の確保・育成に力を注いでいく」と、意気込み十分だ。
 

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