工場探訪ルポ

田島製作所(ステンレス板金加工)

○職人技で「薄板の両面溶接」
○1アンペアの調整で厳しい品質に対応

 「難加工材」のステンレス鋼の溶接には専門的な技術や技能が必要とされるが、大手・中堅企業と中小零細企業とでは求められる内容が微妙に異なる。中小企業では、自らが長年培ったテクニック、すなわち職人技を頼りに事業を展開するところが少なくない。そこで埼玉県草加市のステンレス板金加工業、田島製作所を訪問。自らティグ溶接トーチを奮う、田島一社長にステンレス溶接のポイントについて話を聞いた。
   

田島一社長

 同社は、食品機械部品の製作を中心にステンレス板金加工業を展開する。10年ほど前までは食品機械部品だけを受注していたが、最近では溶接をはじめとするステンレス加工の技術・技能が高く評価され、食品以外の機械部品製作の依頼なども増えているという。
 食品機械における溶接の難しさは、なんと言っても食品に直接触れる部品内側に品質の高い溶接ビードが求められることにある。ビードにブローホールなどがあると、そこに食品が詰まって腐食、雑菌が発生する可能性があるためだ。そこで田島さんは1ミリ以下の薄板にもかかわらず、あえて裏波を出さずに表側を溶接し、その後で裏側も溶接するという。すなわち、両面で溶接することで、接合強度とビード外観のバランスを保っているわけだ。
 ただ、この方法では熱影響が大きく、ひずみなどの不具合が発生するため、品質を確保するには何らかの工夫が必要になる。しかし、田島社長は「コストや作業効率を考えると、治具はなるべく使いたくない。できるだけ自らのアイデアやテクニックを駆使し、要求品質を満たした上で効率良く溶接したい」とし、こうしたアイデアや工夫の上に中小企業は成り立っているという。
 取材当日は、食品機械の投入口となる「ホッパー」と呼ばれる部品を製作していた。同部品は、ロート状の三角錐の部品の先に板材を取り付けたような構造を持つ。このロート状の部品と板の溶接にあたってはひずみを考慮し、接合部分の穴をロートの出口に合わせた円ではなく、あえて楕円状に設計することで、治具を使わずに溶接するという。いわゆる「逆ひずみ」と同じような原理で、これを溶接すると熱影響によって、最終的にはロートの出口にマッチした円周状に溶接できる仕組みだ。


ホッパーの製作には高度な技能が要求される

 また、ロート状部品の製作に当たっては、その先端内側部分はトーチや手の入らない狭い個所となる。そこで通常のガスシールド経路に加え、トーチ外周にもう1層のシールドガス経路を用いることで、タングステン電極をより長く突き出すことのできる特殊なティグ溶接用ノズル(米・PWT社製=ウルトラシールド)を使うなどの工夫もみられる。
 「できる限り効率の良い溶接方法を考えているが、最近は品質に対する要求が厳しくなり、接合品質(強度など)と直接関係のないビード外観などを気にする顧客が増えてきた。その分、溶接時間が長くなる傾向がでてきている」
 例えば最近では、溶接で当たり前とされてきたウロコ状のビードを嫌う顧客もあり、そういうときにはパルスのピッチを非常に細かくして対応するため溶接に時間がかかるという。
 「難しい溶接の依頼が増えてきたが、それらの依頼に応えることができる要因の一つには、1アンペア単位で細かく電流を調整できるデジタルパルスティグ溶接機の効果も大きい。導入前は1アンペア分ぐらい自分のテクニックでカバーできると思っていたが、実際に使ってみると、テクニックの幅が広がり、今では仕事に欠かすことのできない機能になった」
 同社では、ティグ溶接のほか、スポット溶接、半自動溶接、はんだ付などの接合方法を臨機応変に使いこなすことで、顧客の細かい依頼に応える。もちろん同社は板金加工業であり、プレスブレーキやベンディングローラーなど、溶接機以外の設備も充実。基本的にはんだ付以外の加工は全て、田島社長の手作業となる。


作業場には各種の溶接機が並ぶ

 「溶接の基本は会社に勤めていた頃に覚えたが、今の仕事に必要な技術・技能のほとんどは手探りで身に付けた。1品モノの受注が多いため、要求性能や形状を見極めながら、その都度、効率的な製作方法を検討している。このため寝ているときでもアイデアを思いついたら起きてすぐに試すようにしている。得意先などには溶接技能を認めてもらえるようになったが、やはり上には上がいる。何でも溶接できるような職人を目指したい」
 田島社長は現在、地元草加市における溶接事業所のネットワーク作りや、溶接を使った金属彫刻の展示会への出品活動などを通して、溶接技術・技能の普及にも力を入れる。

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