工場探訪ルポ

■坪井特殊車体

【特殊車両製造】
○ものづくり基礎の徹底を図る
○ラリー競技車両で高い技術力

 昨年秋からの金融危機の影響により、国内大手自動車メーカーが大幅な減産を発表し、自動車産業には大きな変化が訪れれている。しかし、イベント用のステージカーなどニッチな分野に特化することで、好調を示す企業もある。 今回、坪井特殊車体(静岡県焼津市)の本社工場を訪問。坪井弘一社長に同社の取り組みについて聞いた。

坪井弘一社長

 同社は1972年に創業。事務所および本社工場はJR西焼津駅の傍らにあり、敷地面積は4343平方メートル。従業員は26人が在席し、特殊車両の設計および製作を請け負っている。
 同社が製作する特殊車両とは、用途に合わせて空間を展開するイベント・展示会場用車両やオープン型ステージカーなど。加えて、特殊災害対応車や水難救助車などの緊急対応車両の製作なども手がけ、ユーザーの要望に応じたさまざまな車両の製作に取り組んでいる。
 「基本的に当社の製品はオーダーメイドの一点物。依頼に同じものはなく、製品も材料から大きさ、壁紙などの内装まで、依頼によって異なる」と坪井社長。
 創業当初は漁業の盛んな焼津市という土地柄から冷凍マグロなどの輸送車両として液体窒素式冷凍機を組み込んだ超低温車などを製作し、その後もリフトローラー車などの省力車両の開発にとり組んできたが、現在はイベント用車両の注文が多く、特殊車両の用途も変化しているという。
 最近では荷台が横に広がる拡幅型荷台など、業界の先駆けとなる製品も製作。年間の製作数は小型から大型まで約20〜30台ほどとなる。
 特殊車両は、既存のトラックシャーシに改造を施し、各種用途向けに製作した荷台を据え付けて製品とする。
 材料としては軟鋼が6〜7割を占め、そのほか、ステンレス鋼やアルミニウム合金、FRP樹脂を使用する場合もある。

荷台骨格部を半自動溶接で接合

 製作工程をみると、鋼材の切断などの事前加工と組立加工を同社工場で行い、プレスや塗装などの作業は外注に依頼する。
 組立加工では、溶接だけでなくリベットや金具での接合も行われる。溶接は主に荷台骨格部分などに用いられている。車両1台につき2〜3人が班を作り組立を担当。そのうち、溶接作業者は10人ほどだ。
 設備では「溶接機は半自動溶接機15台、ティグ溶接機1台を保有している。基本は半自動溶接による溶接が中心だが、外観が重視されるステンレスやアルミニウムなど、素材によって使い分けている」とし、ステンレスは消防車両の水タンクなどに、アルミニウムは荷台の屋根などに使用されている。

改造中のトラックシャーシー

 製作上の注意点としては「溶接前のワーク脱脂など基礎的な作業の徹底を図っている」という。
 また、同社の特徴には、設計と現場が緊密な連携による製作環境を構築した点である。坪井社長は「当社製品は1点ものだけに、ユーザーのこだわりも強い。ユーザーとは設計や現場のものと一緒に相談し一社全体で製造に携わっている。現場作業者が立ち会うことで、アイディアのフィードバックやトラブルにも対応できる。現場では日頃からアイディアが提案されており、応用性は抜群だ」と自信をみせる。
 また、こうした加工態勢は異なる分野からも評価されている。同社は95年から菅原義正氏が率いるHINOチームスガワラとの契約により、パリ・ダカールラリーの競技車両の製作に携わっている。
 「日頃製作している車両とはほぼ異なり、軽量化と耐久性の確保を目指し、外板にはリベットを使わず、接着剤による接合なども試みた。当社からも空力特性の向上を考え、車体脇にスカートを装着させて空気抵抗を抑える工夫を提案した」と、新しい分野にも挑戦した。
 結果、96年のレースでは、カミオン(トラック)部門において総合で1位、2位に輝いた。さらに、翌97年は1・2・3位を独占し総合優勝を果たした。
 このように、世界的な舞台で活躍する同社製品だが、受注生産であり、製造ラインの自動化が難しいため、その品質は作業者の技能によるところが大きい。
 坪井社長に作業者の技術教育について聞くと、「溶接技能のスキルアップは作業者の自主性に任せている。まず、やる気が湧かないと何事も上達しない。興味が湧けば、周囲の先輩達に自ら教えを請うし、社内コミュニケーションも活発になる。また、製品が特殊であるため、仕事を経験していくことで、自ずと応用性も身につけることができる」と、実作業の中での技能強化を促している。
 今後の目標は、荷台以外にもコンテナなどの製作なども視野に入れて受注の拡大を図るほか、トラック荷台の製作という仕事の認知を高め、新たな需要の掘り起こしを進める方針だ。
 加えて「『楽しい仕事』をモットーに考えている。営業・設計・現場の皆が考えを出しあえる仕事は社内の雰囲気も盛り上がり、ユーザーが満足できる良い製品にもつながる。今後も楽しい仕事を続けていくために社内の環境作りに力を注ぐ。自由度の高さとフットワークの軽さという利点を生かして、営業に取り組んでいきたい」と抱負を語った。

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