工場探訪ルポ

■三菱自動車工業(名古屋製作所)

【ユーザールポ】

連続シーム溶接

○将来に向けた高生産性に期待

s-mitsubishi%202.jpg

                      ◇

 今年5月27日に販売を開始した「コルト ラリーアート バージョンRスペシャル」。走りの質感を徹底追求し、ラリーやジムカーナなどのモータースポーツマニアのニーズやこだわりに応えるべく製品開発を進めたこのコルトの限定車種は、持ち前のエンジンパワーに加え、それに絶えうる剛性ボディを有していることが最大のセールスポイントだ。
 いかに同社がこのRスペシャルにこだわりを持ってものづくりを進めているかは、そのパンフレットを見れば一目瞭然だ。
 〃ラリーアート〃はもともとモータースポーツ仕様の車種を表す冠であり、これまでのバージョンーRでもすでにエンジンパワーを高めるとともに、バネ下重量も軽減するなど、走りの楽しさを徹底追求してきた。
 「残された課題は、エンジンパワーに負けない、さらに剛性の高いボディをつくることだった。ただ、従来のバージョンーRでもドア開口部におけるボディパネルの溶接点をノンターボ車の1・5倍に増やしている。今回はそれ以上の剛性向上にトライした」(同社)

s-mitsubishi%201.jpg
三菱自動車工業、藤井康司氏と松村吉修氏

 通常、ラリー仕様の場合、カーオーナーが購入後、ロールバーを装着させるなど、自らの手でボディの剛性アップのためチューンナップしていた。今回のRスペシャルでは、ロールバーなど補強部品の追加なしで、ボディの剛性を向上しようというものだった。
 自動車のボディパネルはいくつものパーツ部品の組み合わせにより構成されているが、とくに空間部の面積の大きいドア開口部の強度アップが重要課題となる。そこで同社では、このドア開口部の剛性アップを図るため、その溶接法に着目し、研究を重ねた。
 従来、ドア開口部は補強部材を含めた3枚の鋼板を重ね合わせ、スポット溶接を行っている。コルトの場合、ドア開口部の溶接個所は片側パネルで前後合わせて約240打点となる。この点溶接個所を連続溶接することに着目。レーザ溶接やアーク溶接など様々な溶接法がトライされた。
 「従来のスポット溶接では打点ピッチは最小25ミリ間隔となる。連続溶接することで、ピッチを規制せず、剛性を上げることができる。ただ今回は約300台を目標とする限定生産であったため、極力設備投資を抑えた生産態勢を確立しなければならなかった」(同)
 レーザ溶接の場合、もちろん設備投資が大がかりとなり、アーク溶接では鋼板3枚の重ね貫通溶接が困難という問題があった。
 そこで考え出されたのが円盤電極による連続溶接が可能なシーム溶接だった。ただ、従来、シーム溶接は大型設備に加え、消費電力量も大きいというイメージがある。生産技術と開発部隊がタッグを組み様々な検証、研究した結果、最も少量生産に適したシーム溶接装置の採用に踏み切った。
 「ドア開口部の溶接長は前後合わせて片側約6メートル。今回は限定生産と言うこともあり、作業者によるシーム溶接を採用したが、将来の大量生産を見据えた場合でもシーム溶接の利点を十分生かせる。補強材を含め3枚の鋼板で板厚約3ミリを接合する場合、YAGレーザ溶接では毎分1・5〜2メートルだが、シーム溶接でロボット化すれば毎分約3メートルの溶接速度を確保でき、生産性向上にも威力を発揮する」(同)と判断した。

s-mitsubishi%203.jpg
二人のスタッフによる連続シーム溶接(ドア開口部)

 現状の生産工程は、生産ラインで組み立てられた車体ボディをいったんラインから外し、1台1台手作業で進められる。専用マシンにより、2人のスタッフが手作業で前後左右4枚のドア開口部に連続シーム溶接を施す。その後、歪みやバリ取り仕上げを行い、再び生産ラインへ戻す。日産5台の手作りにこだわった車種と言えよう。
 ポイントとなったのは、やはり溶接機の小形、軽量化だ。今回採用した愛知産業社製ポータブルシーム溶接機は、アロー社製の小型トランスを採用し、本体重量120キロとコンパクトでありながら、最大1万2000Aまでの電流を流せる。しかも電極径は従来のφ300ミリに比べ、φ80ミリと非常に小さいが、単位面積あたりの加圧力は200キロ強を確保する優れもので、溶接機メーカーとの試行錯誤を繰り返しながら理想的な電極円盤を生み出した。
 また、亜鉛メッキ鋼板を対象とした溶接なので、現状では電極に付着した亜鉛メッキを削除するため、1サイクル(前後左右)に1度の割合でドレッシングしているだけで、電極の耐久性も非常に優れているという。
 「現状は少量生産だが、そこで様々な溶接パターンや溶接条件を蓄積することで、将来に向けた大量生産に対応するシステムを構築し、より剛性の高いボディを作り上げていきたい。スポット溶接では現状、毎分1・2メートルだが、連続シーム溶接では毎分3メートルの高生産性が期待できる。ただ全てが連続シーム溶接に置き換えるのではなく、適材適所の接合法でより完成度の高い生産方式を生み出していきたい。また、連続接合という新たな生産方式をさらに進化させ、より軽く剛性の高いボディを目指していきたい。今後も〃走り〃にこだわり、お客様のニーズに応える車作りに寄与したい」(同)と、連続シーム溶接による可能性に大きな期待を寄せる。

s-mitsubishi%204.jpg


出典:溶接ニュース
2008年6月24日第2768号

 

お勧めの書籍