工場探訪ルポ

■住友重機械マリンエンジニアリング(横須賀)

【現場ルポ】

住友重機械マリンエンジニアリング
横須賀造船所

10万5000t
アフラマックスを連続建造

トヨタ生産方式導入

効率追求する「都会の造船所」

 住友重機械工業・横須賀製造所(神奈川県横須賀市)は、三浦半島の中央部に位置する。先端事業エリアには、技術開発センターをはじめ、電子機械、メカトロニクス、水・エネルギー環境など、グループの研究開発部門が集結。造船エリアでは、住友重機械マリンエンジニアリングが操業している。
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 住友重機械は1897年の創業以来、横須賀造船所と浦賀艦船工場(2003年閉鎖)を生産拠点とし、1300隻以上の各種船舶、海洋構造物などを世界の海へ送り出してきた。
住友重機械マリンエンジニアリングは03年4月、住友重機械の100%子会社として誕生した造船専業会社。横須賀造船所では長い歴史に裏付けられた技術力とノウハウを生かした独自の造船事業を展開している。
「ここ数年は、10万5000tクラスのアフラマックス型タンカーを年8隻のペースで建造している。日本の造船所は能力増強が目立っているが、我々は急にギアチェンジして操業を高めようという動きはとっていない」(同社製造本部工作部の山下泰生主席技師)
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 会社は造船事業への投資を再開する方針を打ち出した。06―8年度の3年間で60億―70億円を投じ、主に船体ブロックの生産ラインや塗装施設の拡充を図る。
 「新規の塗装工場を除けば、建造能力を上げるというよりむしろ、老朽化した設備の更新が中心になる。プラズマ切断機は昨年、今年と2台ずつ入れ替えた。もともと規模の小さい造船所なので、量を追うのではなく、淡々と古くなった機械を新しいものに替えている」
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 このほかコンベア設備の更新なども手がける同社の設備投資に対する考え方を聞くと、他社との違いが浮き彫りになる。その根底には、今年で導入から5年目を数える、いわゆる?トヨタ生産方式?の影響がある。
 「工場生産とは、整然とモノが流れていくのが当たり前の姿。しかし造船所には複雑な工程が多岐にわたり細部まで見えない部分があり、?整然と流れる?という点に欠けていた。そこでトヨタ生産方式を導入した結果、ある程度モノの流れ、工程が見えるようになった」
 トヨタ生産方式の代表的な要素として知られているジャストインタイム生産方式の最大の狙いは、工程間の仕掛在庫を最少に抑えること。
 それを実践する造船所内を案内されると、確かに工場内もドックサイトもブロックの数が他社に比べ極端に少ないことに気づく。
 かつて組立ヤードだったところがグループ企業の鍛造工場になり中間のブロックを置く場所がなくなるなど、横須賀製造所内の造船エリアが占める面積は小さくなっている。
 ここ10年は造船事業への投資を年間数億円に抑え、建造する船舶の種類を絞り込み効率化を図ってきたが、最近の繁忙ぶりは入社から約30年が経つ山下氏が初めてと指摘する勢いを見せている。
 溶接関連について聞くと、収益改善のめどがついたことを受け「半自動溶接機は入れ替えとともに、工程によっては台数を増やし固定するなど、許容範囲内での充実を図っている」
 溶接の効率化で、導入から3年目を迎える空冷式・自動機用溶接トーチ「TOUGH GUN(タフガン)」(エヌアイウエル)が現場で評価されている。
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 「ラインウェルダーやブロックのバット溶接に適用している。水冷式の場合、循環器が故障すると溶接できなくなる。また水冷循環器が必要ないのでコンパクトになる。2年以上使用して『タフガン』の耐久性は評価しており、今後はビルトアップのところなどにも増やしていきたい」
 溶接について山下氏は、近年、塗装を考慮した要求が高まっていると指摘する。
 「以前、船の溶接に求められたのは強度に関するものが主で、割れやブローホールなどが問題視された。いまは溶接部の強度確保は当たり前になり、とくに塗装品質を考慮したビード外観、低スパッタ化が重視されるようになってきた」ことを受け、ビード外観については片面サブマージアーク溶接法の改良や、低スパッタに向けて新開発のワイヤとフルデジタル溶接機を積極的に導入した。
 溶接技能者の高齢化への対応も避けて通れない課題と捉えている。
 「一つは若い技能者をいかに教育するか。もう一つはベテランの力をいかに発揮させるかが重要になる」。とくにベテランの活用に関して山下氏は、その前提として年配者の作業環境の改善を挙げる。
 「1970―75年にかけて入社した世代を中心とするベテランに今後も働いてもらうため、トーチや保護具などを含め、作業しやすいものをそろえたい。機材メーカーさんにもベテランにやさしい製品の提案をお願いしたい。新人に対する技能伝承のために、これまで培ったベテランの能力をいかに引き出すか、解決の道を探さなければならない」
 今後は、ビルトアップの溶接ラインをはじめ、設備の充実を図る。
 「立地的に?都会の造船所?なので、比較的人件費が高く、簡単に人を集められない。したがって生産量を上げるためには効率を上げるしかないわけだが、こういう思考はいざ実現しようとすると意外に難しい。とはいえ、人員は余り増やさない方向で徐々に進めたい」
 アフラマックスタンカーの連続建造やトヨタ生産方式の導入、都会の造船所ゆえの効率化など、特徴の多い同社だが、今年1月、ギリシャにヨーロッパ事務所を開設したことも特筆される。
 目の肥えた船主の要望に応えるため、すでに受注を始めている新しい塗装規格への対応などの準備にも余念がない。

※写真キャプション(掲載順)

300tゴライアスクレーンが2基並ぶ建造ドック


10月の進水に向け建造中のアフラマックスタンカー


新設の塗装工場


空冷式トーチを搭載し、効率がアップした20電極溶接装置


出典:溶接ニュース
2007年9月18日第2731号

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