入門教室/Q&A
溶接ロボットの基礎知識 第1回 |
わが国において溶接(アーク溶接・抵抗溶接)ロボットが製造工程の一端に定着して四半世紀が経過しました。この間,溶接ロボットは自動車産業を中心に溶接作業には欠くことのできない生産手段として活躍しています。また,生産拠点の海外へのシフトにともない,ロボットの適用の場も世界各地へとグローバル化しています。 一方,溶接技術者・技能者の中には,いまだに「ロボットアレルギー」の人も多く,溶接ロボットに対する理解が十分で無いところも残っているようです。さらに,ロボットに対する認識の間違いからロボットで溶接を行ったにもかかわらず,溶接欠陥を発生させたケースも発生しております。 ここで,今一度ロボットに対する正しい理解と疑問点を無くしていただくために「溶接ロボットに関する基本的な知識」を2回にわたりQ&A形式で紹介したいと思います。1回目は,溶接ロボットについてわかりやすくその概要を説明します。 |
Q1 溶接作業にロボットを用いると,どのような効果が期待できますか? |
A1
ロボットでの作業は次のような特徴が上げられます。
➀Q(品質):溶接品質の安定
➁C(コスト):生産コストの低減
➂D(納期):納期管理の徹底
➃S(安全):作業環境の改善 |
Q2 アークロボット溶接と半自動溶接の違いおよびそれぞれの特徴を教えてください。 |
A2
アーク溶接ロボットと半自動溶接の一般的な比較を表1にまとめてみました。 ![]()
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Q3 溶接ロボットの仕組みを簡単に説明してください。 |
A3
溶接を行う産業用ロボットは,鉄腕アトムのようにロボット自身で溶接工程のすべてができるわけではないので,溶接ロボットを使用するための前提条件として,作業者が自分自身で溶接を行う時のように溶接の順序・姿勢・条件などをロボットに教え込むことが必要です。 教え込ませる方法は,後で述べるティーチペンダントを用いてロボットの腕を遠隔操作で動かして行います。そしてその教え込んだデータを呼び出し(プレイバック)て,ロボットに自動運転を行わせるものです。このようなロボットをティーチングプレイバックのロボットと言います。ロボットに作業を教え込むことを教示作業またはティーチング作業といいますが,この作業は作業者のテクニックがそのままロボットの動きに反映されるため,溶接作業を熟知したベテランの作業者の技量を生かしたティーチングが望まれます。 |
Q4 どんなものでもロボットで溶接できるのですか?溶接物に関して,ロボット化を行うために必要な条件を教えて下さい。 |
A4
ロボットで溶接を行うためには,次の二つの条件を満足させる必要があります。 一つは,ロボットは作業者が教えた(教示作業)通りの動きしかできないので,作業者が教示作業を充分にできるかということです。教示作業は実際に溶接を行う時間の数十倍の時間を必要とします。例えば(物にもよりますが),約5箇所の溶接部位があるとしたら教示作業時間だけで10〜30分ぐらいを必要とします。そしてその後それぞれの部位の溶接条件を決めていく作業が必要です。したがって一品一様の物は教示作業など前準備に多くの時間を要し,ロボットを用いた溶接には適しません。一方,最低10〜20個以上の同じ物(量産品)を溶接するときには教示作業に多少時間をとられてもその後の効果が大きくロボット使用のメリットが出てきます。 二つ目は,「ロボットは目を持っていない」ということです。同じ動作を精密な軌跡で繰り返すことは得意ですが,自ら溶接位置を探すことはできません。したがって,溶接材料を同じ位置へセットする事が大前提となります。溶接位置がズレていたら溶接線狙いズレとなり溶接欠陥・溶接不良を作ってしまいます。ワーク位置決めのバラツキの限界は使用する溶接ワイヤ径の2分の1以内といわれています。 |
Q5 どのような作業にロボットは用いられていますか? |
A5
ロボットは一般的に工場内に設置して使用されますので,工場で加工する溶接作業に多く用いられています。その最たるものが自動車産業です。自動車は,溶接個所が多く,同じ物が繰り返し生産されるので,ロボット化が容易に行えています。自動車部品の溶接個所に関して品質の安定と大量生産が可能になったことは,ロボットで溶接を行っていることが大きな要因です。 他には事務機器・農機具・家電・車両など工場内溶接で量産品がある場合は,溶接物の材質(鋼材・ステンレス材・アルミニウム材)や板厚(1mmt以下から50mmt超)に関係なく,また企業の規模に関係なくロボット化が進んでいます。 一方,造船や橋梁・建設も溶接は多いのですが,現場溶接が多いことと溶接部位が多種多様にわたるため一部を除いてロボット化は進んでおりません。 |
Q6 溶接ロボットはどのような製品構成ですか? |
A6
アーク溶接ロボットの標準的な構成は図1のようになります。溶接方法(炭酸ガスアーク溶接やティグ溶接)によって,溶接機・溶接トーチ・送給装置などを目的にあった溶接機器に変更して使用します。つまり,ロボットはマニピュレータ・制御装置・ティーチペンダントなどから成り,溶接を行うツール(溶接トーチ)をロボットの先端に固定して溶接の自動運転を行うものです。
ロボット関連構成品の機能(役割)は次のとおりです。
➁制御装置(コントローラ)
➂ティーチペンダント
➃操作ボックス |
Q7 ロボットで溶接を行うためにはどのような作業が必要ですか?作業の流れをわかりやすく説明して下さい。 |
A7
ロボットに係わる作業は,
➀ティーチング作業とは,ロボットに動きを入力していく作業なのでロボット操作を十分に知っておくことが必要です。この作業は,実際に溶接を行う時間に比べると多大な時間を要するということを念頭においておかなければなりません。またこの作業は,ロボット本体の可動範囲内での作業になるため,ロボットの不意の誤動作や作業者の誤操作による危険を考えて,作業時の安全への配慮と対策が必要です。 ➁溶接条件作りこみ作業は,溶接物に最適な溶接条件を求めていくもので,アーク溶接の場合は基本的には半自動溶接時の溶接条件と同じですが,ロボット化することで溶接速度などの条件の微調整が必要です。まず電流と電圧値は半自動溶接時のメータ値を入力し,溶接速度はストップウォッチなどで測定した値を数字キーで暫定入力します。そして一度溶接を行い,結果を見ながら電流や速度を変更して最適化していきます。この場合のロボットの動きは安全のために自動運転時よりもエアカット速度を遅くした再生動作で運転します。 ➂自動運転はワークをセットしてボタンを押すだけなので誰にでもできる作業です。しかし,ワークのばらつきやセットミスなどで溶接不良が発生し,次工程へ送られないとも限りませんので,でき上がり製品の溶接結果に対し良否の判断が出来る人が望まれます。また,ロボットの動きが早いので安全に対する注意も必要です。 |
Q8 ティーチング作業は簡単ですか?誰にでもできますか?資格は必要ですか? |
A8
作業者は,ティーチペンダントを持ってマニピュレータを遠隔操作で動かし,自動運転時の溶接に必要な位置やスピード・溶接順序・溶接条件などを制御装置へ入力していきます。したがって,車の運転免許証を取得する程度の技量と知識を持つ人で,溶接経験のある人であればロボットのティーチング操作は充分にできると思われます。 一般にはロボットメーカーで2日間程度の講習会を受講して操作技能を修得できます。とくに,パソコンや携帯電話の操作に慣れている人は修得が早いようです。ただ,ティーチング作業ができることと,溶接がうまくいくことは別の問題です。溶接をうまく行うには溶接のノウハウを生かしたティーチングを行うことが必要です。そのためには,溶接を十分に理解している溶接経験のある人がティーチングを行うことが理想です。 溶接熟練者のトーチ角度・スピード・狙い位置をティーチングに生かしたいものです。 また,ロボット作業に従事する人は,労働安全衛生法で「産業用ロボットに関する安全衛生特別教育」の受講が義務づけられています。講習時間は法令で表2の通りです。この資格はロボットメーカーで行われる操作講習会に参加すればほとんど得られます。
表2 産業用ロボットの安全特別教育時間 |
Q9 鉄鋼材料のFSWにおける問題点は何ですか。 |
A9
ロボットを使用するときに,安全について注意することはどのようなことですか? 溶接ロボットは,一般の産業用機械に比べ次の様な危険な因子をもっています。 ➀溶接ロボットの機構・制御が複雑・高度化しているので,これを取り扱う人は十分な知識と技量を持つ必要がある。取扱者の知識不足は誤操作の要因になる。 ➁ロボットの動作が機械外部の空間を静かに非常に早く動き,また次の動作がどの方向かわからない三次元的であるため注意が必要である。 ➂ロボットの制御部は多くの電子部品からなり,その制御は非常に複雑で,ハードおよびソフトの不具合や電磁ノイズでの誤動作の可能性を持っている。 ➃ティーチング作業はロボットの稼動範囲の内で行うことが多く,ロボットの誤動作・誤操作は作業者の危険性に大きく影響する。
これらのために労働安全衛生規則では,次のような内容を「ロボットを使用する作業」に対して義務付けています。 次回はもう少し具体的なロボットの話(ロボット用溶接電源・ロボット設置時の注意事項・ワーク固定ジグなど)をします。 |
黒田 進 |
B5判
946頁
ISBN:978-4-88318-762-1
価格:41,250円(本体価格:37,500円)
A4判 86ページ
価格:2,200円(本体価格:2,000円)
A5判
314頁
ISBN:978-4-88318-560-3
価格:2,640円(本体価格:2,400円)