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エンジン溶接機編

エンジン溶接機編
 はじめに
 アーク溶接法が日本に導入されてから半世紀以上となり、その間、溶接機は飛躍的な発展を遂げ日本の産業発展の大きな原動力となってきました。
 当初、溶接作業といえば、ほとんどが工場内に限られていましたが、作業の多様化に伴い屋外での溶接作業が増大し、電源のない現場で簡単に溶接作業が行える溶接機が求められました。
 昭和34年に日本で初めて小型軽量のエンジン溶接機が実用化されて以来、エンジン溶接機は、屋外での溶接作業に欠くことのできないものとして発展を続けています。
 エンジン溶接機とは
 エンジン溶接機は正式にはエンジン駆動溶接機といい、溶接用発電機をエンジンで駆動することにより、溶接の電源となるものです。一般的には手溶接(被覆アーク溶接法)で使用されます。
 溶接出力は屋外での過酷な環境下においても良好な溶接品質が得られること、また作業環境の悪い場所での安全性などから直流を使用しています。
 エンジン溶接機は、電源の無い建設・土木の現場や、パイプラインの建設など移動する現場、プラントや工場の保守作業などで使用されています。
 近年のエンジン溶接機は、鉄工業、建設業だけではなく設備工事業、レンタル業、農林水産業など広範囲に使用されるようになり、市場のニーズから溶接機プラス交流発電機の機能を持ち、2人の作業者が同時に溶接できる機種や、被覆アーク溶接機だけでなくエンジン駆動による炭酸ガスアーク溶接機、TIG溶接機、セルフシールド溶接機など機種の多様化、多機能化が進んでいます。
 溶接出力は屋外での過酷な環境下においても良好な溶接品質が得られること、また作業環境の悪い場所で安全性などから直流を使用しています。
 エンジン溶接機の種類
 エンジン溶接機は、一般の溶接機と同様に次の溶接法に適した製品が製造されています。
 
◆被覆アーク溶接法
 被覆アーク溶接法は、被覆材を塗布した溶接棒を電極として母材との間にアークを発生し、そのアーク熱を利用して溶接するものです。一般には手溶接法と呼ばれています。
 ◆炭酸ガスアーク溶接法
 炭酸ガスアーク溶接法は、手溶接の代わりにコイル状に巻かれた溶接ワイヤが、送給ローラによりトーチ先端に送られます。
 このワイヤは、トーチ先端のコンタクトチップで通電され、炭酸ガスの雰囲気中で母材との間にアークを発生し、その熱で母材とワイヤを連続的に溶かし溶接する方法です。
 炭酸ガスの代わりにマグガス(一般的にはアルゴンガス80%と炭酸ガス20%の混合ガス)を使用するものをマグ溶接、アルゴンガス100%を使用するものをミグ溶接と呼びます。
 ◆セルフシールドアーク溶接法
 セルフシールドアーク溶接法は、ノーガスアーク溶接やノンガスシールドアーク溶接などいろいろな呼称で呼ばれていますが、現在ではセルフシールドアーク溶接に統一されています。
 セルフシールドアーク溶接は、炭酸ガスアーク溶接法やサブマージアーク溶接法によく似ていますが、アーク部に外部からフラックス及びガスを供給することなく溶接する方法です。すなわち、チューブ状の溶接ワイヤに脱酸材とフラックスを装填してあり、アーク発生とともにアーク柱および溶融池を外気の酸素や窒素から保護して行う溶接法です。
 ◆ティグ溶接法
 ティグ溶接法は、タングステン電極と被溶接物との間にアークを発生保持し、このアーク部を不活性ガスでシールドして溶接する方法です。不活性ガスとしては一般にアルゴンガスが用いられます。タングステン電極はほとんど消耗せず、単にアークを出すための電極として用いられますので、ごく薄板の場合を除いて溶融部の金属を補うためにフィラーワイヤ(溶加棒)が使用されます。
 ティグ溶接法はあらゆる種類の金属の溶接が行えますが、アルミの溶接には溶接電源に交流アーク溶接機を使用します。
 アーク溶接機に必要な特性
 アーク溶接機はアークを負荷として、これに電力を供給するための電源装置です。したがって、アークを安定に発生維持させるために、各種溶接法に適した次の特性を備えています。
 
◆垂下特性
 垂下特性とは、手溶接に代表される電源特性であり、電流が増加すると溶接機の出力電圧が下がる特性です。垂下特性の特徴は溶接中にアーク長が少し変化しても電流はあまり変化せず、安定したアークを維持できることです。
 ◆定電流特性
 定電流特性とは垂下特性の特性曲線の垂下度をさらに急峻にほぼ垂直としたものです。定電流特性の特徴はアーク長の変動にかかわらずほぼ一定の電流で溶接できますので、母材の溶融状態が安定して、均一な溶接結果が得られることです。
 ◆定電圧特性
 炭酸ガスアーク溶接、マグ溶接、ミグ溶接のように細径のワイヤに大電流を通じ高速に自動供給されるものに使われます。定電圧特性の特徴は、溶接中にアークが変動しても溶接電流の増減によりワイヤの溶融速度が増減して、常にアーク長を一定に保つことです。
 エンジン溶接機の用途
 エンジン溶接機の用途には大きく分けて溶接作業と溶断作業があります。
 
◆溶接作業(被覆アーク溶接)
 タンクや管溶接=この溶接は高度な溶接技術が要求され、溶接部分は非破壊検査が行われ、針の穴程度のピンホールでも溶接のやり直しとなります。すなわち、溶接作業において安定したアーク性能が要求されます。(水道・瓦斯管溶接、油・水タンク溶接、パイプラインの溶接)
 重量鉄骨溶接=強度な溶接品質が要求され、溶接作業においては大電流で強いアークが要求されます。(産業機械の現場溶接、砂利採集機・ブルドーザ等の肉盛溶接、大橋梁、船舶、車輌などの溶接、建築物の基礎工事溶接、通信・電力などの鉄塔溶接)
 軽量鉄骨溶接=アーク特性についてはあまり要求されませんが、アーク切れについては作業能率が低下するのでアーク切れの少ない機械が要求されます。(サッシ・シャッターの取付溶接、門扉・フェンス・小物取付工事、農機具等の溶接)
 ◆溶断作業(アークエアガウジング)
 カーボン電極と金属との間にアークを発生させ、金属を溶融させると同時に、電極の外側に平行に噴射するジェットによって溶融金属を吹き飛ばす方法です。ハツリ作業、切断、穴あけなどに利用されます。
 アークエアーガウジングを行うには、ガウジング用トーチ及びコンプレッサーが必要です。エアーは一般に5〜7f/c、500L(3・7kW)以上が必要です。エアーホースは圧力に合ったものを使用します。直流アークエアーガウジング法は、棒プラスの極性で行います。
 エンジン溶接機の特徴
 エンジン溶接機は、他の商用電源を使用する溶接機と比べ、エンジンを動力源としており、その特異性から次の特徴があります。
 ▽商用電源が不要で、配線など事前準備がいらないため、現場の状況に柔軟に対応でる。
 ▽市街地や夜間での作業も可能である。
 ▽エンジン溶接機は、一般に交流の補助電源を装備しており、各種電動工具をはじめ、大型機ではエンジン発電機としても使用できる。
 ▽商用電源を引くための面倒な手続き、および工事が不要であるため、基本料金が不要となりトータルランニングコストが割安である。
 ▽大きな出力を必要とする製品は、ディーゼルエンジンの搭載により低燃費化が図れ、さらにスローダウン装置により燃費の効率化が図れる。
 ▽直流アーク溶接法の採用により、電撃の心配が少なく安心して使用でき、かつ、過酷な屋外での溶接品質が確保できる。安全設計で優れた溶接品質が確保できる。
 ▽運転操作・メンテナンスが容易である。
 ▽自動車と同じ始動・停止操作により使用できる。
 ▽油圧低下、水温上昇(水冷式)等のセンサーを備えており、万一の場合、非常停止装置が作動するので安心して運転ができる。
 ▽ワンサイドメンテナンス方式のエンジンの採用と、ワンタッチで開閉できる大型ドアにより、始動点検やメンテナンスが容易にできる。また、発電機には、メンテナンスフリーのブラシレス発電機が採用されている。
 エンジン溶接機の選択方法
 エンジン溶接機の選定にあたっては、性能、機能、安全性、耐久性、サービスなどの条件が求められます。
 溶接機の容量=容量の選定は、まず使用する溶接棒の溶接電流によって決められます。付表は通常使用されている軟鋼、下向きの場合のアーク電圧と溶接電流です。もちろん溶接棒の種類、溶接条件によってこの値は変わります。
 使用率=溶接機には使用率というものがあります。使用率は機械の運転率ではありません。運転時間全体に対するアークを出している時間の割合のことです。
 溶接作業は連続で行うことはほとんど無いので、多くの場合、溶接機は定格使用率を40〜60%に制限し、機械の特長である可搬性や機動性に重点を置いて、小型・軽量に設計されています。使用率とは、10分を周期として、アーク溶接をする時間をこの10分間に対する割合(百分率)で表したものです。
 例えば、使用率50%とは、10分間周期のうち5分間アーク溶接を行い、5分間アーク溶接を休止して使用するという意味です。また、定格使用率とは定格出力電流を流す時の使用率をいい、実際使用の場合の使用率とはかならずしも一致しません。(通常、屋外作業で使用される溶接機の使用率は20〜30%程度です。また、溶接棒1本の消費時間は2〜3分です。)
 駆動エンジンの種類=駆動エンジンには、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンがあります。ガソリンエンジンについては、2サイクルエンジンと4サイクルエンジンがありますが、最近は排気ガス規制の関係から、4サイクルエンジンが使用されています。
 一方、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより重量が重くなり、丈夫で大容量の溶接機に適しており、ランニングコストが安いのが特徴です。
 防音型と標準型=都市条例などで騒音が規制され、市街地での作業は防音型と限定されている場合や、住民からの騒音苦情が持ち込まれる場合がありますので、できるだけ静かな運転音の機種を選ぶことが大切です。
 交流補助電源=現場作業の多様化の中で、省力化の一環として溶接機を発電機として利用しようとする市場のニーズに応え、大容量の交流補助電源付きの溶接機が一般的になっています。交流補助電源には、溶接と同時に使用できる機種と、できない機種がありますので、交流補助電源の容量などとともに、現場の要求に応じた機種の選定が必要です。
 用語の解説
 エンジン溶接機の仕様諸元の用語について説明します。
 
◆出力電流(溶接電流)
 溶接機の出力端子から溶接ケーブルを通って、アークに流れる電流をいいます。
 ◆定格出力電流
 定格出力電流とは、標準状態(大気圧760Pa、温度20度、湿度65%)において溶接機を定格回転速度、定格負荷電圧、定格使用率で運転した場合に流すことができる電流をいいます。
 ◆アーク電圧
 アークを通じて流れる電流を溶接電流といい、その時に溶接棒と母材との間にかかっている電圧をアーク電圧といいます。また、アークを出していない状態を無負荷といい、その時溶接棒と母材との間にかかっている電圧を無負荷電圧といいます。
 ◆定格負荷電圧
 溶接機を定格回転速度において定格出力電流を通じた場合の溶接機の出力端子における負荷電圧をいい、その値は「E=20+0・04I」(E=定格負荷電圧V、I=定格出力電流)となります。
 ◆許容使用率
 出力電流に応じて、使用可能な使用率を許容使用率といいその値は次の式で求められます。
 「許容使用率=(定格電流)2/(溶接電流)2×定格使用率」
 例えば、定格250A、定格使用率50%の溶接機を200Aで溶接する場合、許容使用率約80%となり、8分溶接して2分間休む状態で溶接作業を行っても、発電機が過熱することはありません。
 ただし、機種によって溶接電流の制御方法が異なり、許容使用率が求められない機種もありますので、機械に添付されている取扱説明書を参照してください。
 ◆スローダウン装置
 手溶接は連続して行われることは少なく、溶接が行われていない時には、エンジン回転速度を低速にするのが合理的です。
 すなわち、スローダウン装置とは、溶接機が無負荷になった時、エンジン回転速度を自動的に下げ、これによる燃料の節約と騒音の低減、機械の延命を目的としたものです。スローダウン時の回転速度は一般的に定格回転速度の60%程度で、定格時の状態で約30%の燃料節減が図れます。また、スローダウン装置は交流補助電源の使用の有無に対しても動作する機構となっています。
 ◆交流補助電源
 一般にエンジン溶接機には、照明や電動工具類の電源として交流補助出力が装備されています。特に、ディーゼルエンジン駆動によるものは、エンジン発電機としても使用できる大容量の単相及び三相交流出力を備え、エンジン出力の範囲内で溶接作業中でも交流の使用(同時使用)が可能な機種も開発されています。
 新方式のエンジン溶接機
 ◆永久磁石式発電機搭載型
 永久磁石式発電機はロータに永久磁石を組み込み画期的な小型軽量を実現した高周波発電機です。交流出力の制御にインバータを採用することで商用周波数(50/60Hz)を得ることができ、永久磁石式(高周波)発電機を搭載可能としています。これにより交流励磁機付きブラシレス方式の発電機と比較し励磁機、主界磁巻線、回転整流装置が不要でシンプルな構造となる一方、溶接中及び交流負荷使用時の熱損失が小さく高効率な発電機です。発電機の発生熱が少なく冷却ファンレスであり、さらに、ベアリングレスのメンテナンスフリーの超小型軽量発電機です。
 ◆インバータ制御方式
 交流出力の制御法で、インバータにより永久磁石式発電機からの高周波出力を商用周波数50/60Hzに変換しています。交流出力の無負荷電圧波形歪率は、インバータ制御と波形修正回路により5%以内と、精密機器にも十分に対応できます。周波数の切換えは50/60Hz切換えスイッチによりワンタッチで切り替えることができます(従来機はエンジン回転速度の調整により行われていました)。
 ◆新サイリスタ制御方式
 発電機から得られる垂下特性の電源を独自のサイリスタ制御方式による定電流制御を行います。熱損失の少ない高効率の永久磁石式(高周波)発電機と新サイリスタ制御方式により、安定したアーク特性が得られます。また、独自の定電流特性(定電流特性にアークドライブを付加)により、小電流域でのアーク特性が大幅に改善され、アークスタートがスムーズでアーク切れのない溶接が行えます。
 ◆トランジスタチョッパ制御方式
 トランジスタチョッパ制御方式にはPTRによる方法と、IGBTによる新トランジスタチョッパ制御方式の2通りがあります。トランジスタチョッパ制御方式は、手溶接機に求められる出力特性を電子制御により最適の特性(独自の定電流特性)をつくりますので、アーク特性が飛躍的に向上している。
 溶接出力をトランジスタチョッパ制御することにより、溶接と交流の同時使用においてお互いに悪影響を与える事が無く、安定した同時使用が行えます。二人用溶接機は、ダブルチョッパ制御により個々に溶接電流調整が可能で、お互いの溶接に悪影響を与えず安定した溶接が行えます。トランジスタチョッパ制御は、省エネ(省燃費)であることが特徴の1つであり、電流域が小さいほど省エネ効果が発揮されます。さらに、新トランジスタチョッパ制御方式はIGBTを採用、PTR方式により更に高周波で制御を行いますので、より安定した溶接が行え、溶接時のアーク音も大幅に低減されています。また、アークフォーストリマ(短絡電流調整器)を装備し、これにより、溶接棒の種類、溶接姿勢や溶接施工法などに対応したアーク特性に調整できます。

〈参考〉


イラスト(サッシ・シャッターの取り付け溶接、フェンス・小物取り付け工事、農機具などの溶接)


表・溶接機の容量選定


写真1・永久磁石式発電機搭載でインバータ制御方式のGAW-150ES(左)とPTRチョッパ生業方式採用のTLW-450SSWI(右)


写真2・TIGエンジン搭載機GAT-150ES


写真3・ディーゼルエンジン溶接機(2人用)DLW-400ESW


写真4・セルフシールド/CO2溶接機SDW255SSK


デンヨー 経営企画室/藤本庄一郎

出典:【溶接ニュース05年4月12日号】

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