秋田の大館から出てきて新宿の歌舞伎町でバーテンダーをやっている浜本純平。長崎の五島出身でホストクラブにつとめる真島朋生。二人は働いている店が同じ歌舞伎町の雑居ビルということからの知り合い。二人とも30にもなろうかというのに使いっ走りみたいなもので先の見えない生活。
そこに朋生の妻美月が赤ん坊の瑛太を連れて五島から上京してくる。幸い、美月親子は純平が働いているバーのママ山下美姫のマンションにおいてもらうことに。
そんな折、純平から、ひき逃げ事故を目撃したが、自首してきた男は、実際に運転していた男とは違う、身元を割り出して脅迫すれば1千万くらいにはなるのではないか、との話が出てきた。
朋生が調べたところ、ひき逃げしたのは奥野宏司なる人物。ひき殺されたのは榎本陽介という。さらに探ったところ、実際にひいたのは宏司の弟奥の光晴と判る。光晴は湊圭司の名前で人気の著名なチェロ奏者だった。この湊も大館の出身。
純平と朋生が湊に連絡すると現れたのが湊の秘書園夕子。やり手のマネージャーである。
夕子にかかると純平と朋生の脅迫劇も茶番みたいになってくる。
そして夕子はさらに大きな飛躍を企画していて、純平を郷里の大館から衆議院議員選挙に立候補させることに。昨日まで歌舞伎町でバーテンダーをやっていた若者が代議士なろうかという話。
夕子は純平の参謀としてこの選挙を取り仕切るのだが、この選挙区には5期連続当選している大ボス徳田重光がいる。勝算はあるのだろうか。奇想天外なこの話がやがて現実味を帯びてくる。
猿蟹合戦は、悪賢い猿にだまし殺された蟹の敵をその子蟹たちが栗や臼などの助けを借りながら仇を討つという昔話だった。
本書では二つの復讐劇が盛り込まれているが、それは伏流水となって流れていて表面に出ることはない。とくに二つ目の復讐劇にはそれとは気がつかないかもしれない。
ただ、登場人物がいずれも多彩で、まるで猿蟹合戦の栗や臼ばかりか蜂も牛糞出てくるといった様相。
著者の前作『悪人』もそうだったが、ストーリーは面白く読みやすい。エンターテイメント性も十分にある。
ただ、前作同様、テーマは深層にあって、面白いストーリーを追いかけてばかりいては気がつかないで終わる。
それはそれでもいい。それほどの面白さだから。しかし、伏流水に気づき深層にあるものをつかみ取っていくと小説としての醍醐味が増すようだった。
(朝日新聞出版刊)
A5判
314頁
ISBN:978-4-88318-560-3
価格:2,640円(本体価格:2,400円)
A4
138
ISBN978-4-88318-063-9
価格:2,200円(本体価格:2,000円)
溶接学会 溶接法研究委員会
B5判
258頁
ISBN:978-4-88318-060-8
価格:13,200円(本体価格:12,000円)