秋葉原日記 (ライブラリ)

加藤陽子『とめられなかった戦争』

 さかのぼり日本史シリーズの第2巻目「昭和編」。1巻目の五百旗頭真「戦後編」からさらにさかのぼってきた。
 本書では、1945年の敗戦への道から、1941年の日米開戦、1937年の日中戦争、1933年の満州事変へとさかのぼっていて、それぞれにターニングポイントを上げて記述を進めている。
 まず、太平洋戦争の敗戦は1944年のマリアナ沖海戦とサイパン失陥が決定的ターニングポイントであったとしている。つまり、サイパン失陥こそが絶対国防圏の崩壊となっているのであり、日本の本土空襲を可能ならしめたというわけである。そして、この時点こそが日本が戦争終結を決断すべき機会だったのだとも。
 さらにさかのぼって、敗戦へと突き進む日米開戦に至る直接・間接の引き金になった出来事は、おもに日中戦争、とりわけその長期化にこそあったのだと。
 つまり、日中戦争を早期に解決できず泥沼化したことによって日本の南進を企図させ、一方でアメリカを引きずり込むこととなって中国をめぐる利害対立が日米戦争へと発展したのだというわけである。
 しかも、そもそも日中戦争の前段階では当初支那事変と称していたように、戦争にあらざる戦争という具合できわめて奇妙な扱いとなっていたが、それも日本のみならず中国も同様の位置づけだったのだが、そこには日中双方にとってアメリカの介入を避けたかったのだとし、それほどにすでにアメリカの存在は大きかったのだとも。
 さらにさかのぼれば、日中戦争へのとば口とされる満州事変のその2年後、熱河侵攻作戦こそがターニングポイントであったとし、ここで天皇でさえ軍部暴走を止められない事態が現出してしまったのだと展開している。
 著者は、日本近代史を専攻する東大教授。著作が多く、『満州事変から日中戦争へ』や『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』などと読んできたが、いずれにおいても豊富な史料を精査しているし、新資料や証言も発掘して新しい視点を示しているのが特徴だった。
 本書も同様で、とくに本書では、これまで幾度となく練り込んできた著者得意のテーマについて一気呵成に書き込んだという躍動感もあって、記述はやさしくわかりやすく、それも、なぜか、なぜかと歴史をさかのぼっているから蓋然性もあって腑に落ちる面白さだったし、さかのぼりシリーズの成功例となっていた。
(NHK出版刊)

tomerarenakattasenso.jpg

 

バックナンバーへ

お勧めの書籍