秋葉原日記 (ライブラリ)

矢作俊彦『エンジン/ENGINE』

 外国製高級車連続盗難事件捜査で張り込みをしていた築地署刑事游二の前に現れた国籍正体不明の女。
 女は拳銃で銀座ティファニーのショーウィンドーを破り、ダイヤのピアスを奪ってさっそうと立ち去った。
 女に気をとられ張り込み現場を離れている隙に同僚の茂原が殺されていた。
 警察官殺害事件や国際窃盗団事件などと複雑に事件が絡み合ってストーリーが進む。
 行き先々で游二の前に立ちふさがる謎の女。気づかぬうちに游二のそばに現れる太ったロシア人の男。
 テンポはいい。たたみかけるように進む。ディテールはしっかりしている。ことに車や拳銃についてはオタクっぽい詳しさ。
 しかし、現実感は薄い。ハードなアクション映画を見ているようなものだ。もはやハードボイルドいうジャンルを超えているのかもしれない。
 中国人暗黒街が出てくる。ロシアマフィアも登場してくる。この頃のハードボイルドの舞台はグローバル化している。
 高級車の窃盗などはこの頃のハードボイルドでは食傷気味のネタであって新鮮みは何ほども感じられないが、本書結末では意外な物品が日本に持ち込まれてくる驚愕の事実も。もっとも、とってつけたような印象はぬぐいきれなかったが。
 先般、大沢在昌の『絆回廊 新宿鮫10』を読んだばかり。同じグローバル化する闇社会を扱って新宿鮫はJポップ風に情感たっぷりだったのに対し、本書は言ってみればプログレッシブロックのようなものだろうか。一切の情感をはがし取ったような印象だ。わずかに游二の琴線に触れたのは謎の女と別れた女房だけだったか。
 矢作は傑作『ららら科学の子』などは情緒たっぷりだったが、司城志朗との共著『犬なら普通のこと』あたりから暴力的になった。
 なお、書名は中国語でエンジンを意味する引+敬に手(中国語読みインヂン)と表記されているが、ブログでは使用文字制限があって表記できなくてここではエンジンと表記した。
(新潮社刊)

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