秋葉原日記 (ライブラリ)

クラフト・エヴィング商會『おかしな本棚』

 クラフト・エヴィング商會とは、吉田篤弘、吉田浩美によるワークユニットで、共同あるいは単独で創作や装幀などを行っている。本書の執筆は吉田篤弘の分担。なお、篤弘、浩美は夫婦である。
 なかなか魅力的な本である。本好きが原稿を書き、本好きが本を作った。読み手としても本好きとしてはフムフムニコニコと楽しくなるような本だった。
 本にまつわるエッセイを集めたものだが、視点がユニークで、対象となる本は本棚に並べられていて、読者はその背表紙を眺めることとなる。
 見開きページの上半分が本棚の写真になっていて、下半分には本棚に並べられている本の背にあたる書名・著者名・出版社名が改めて列記されている。そして、別ページでそれぞれの本に関わるエッセイがつづられているという具合。
 いろいろな本棚があって、「ある日の本棚」とか「金曜日の夜の本棚」「遠ざかる本棚」「見知らぬ本棚」などと30ほどの本棚が並んでいる。それぞれに割り当てられた本棚は1段ずつで、各本棚には20冊前後の本が並んでいる。
 本棚にはそれぞれのカテゴリにそった本が必ずしも集められているというのでもないようだし、しかも、その仕分けは独特だから、著者が用意周到に配分した意図を推し量るのは容易ではないが、そこを読み取りながら読んでいくのは楽しいものだった。
 本棚に並んでいる本には新刊は少ない。それよりもこの数十年間に発行されたような本が多い。著者は装幀家でもあるから、造本上の面白さから選んだような本も少なくない。
 自分も本好きだからだろうが、他人の本棚を眺めるのは興味深いもので、従って本書も目をこらしながら棚を点検していった。
 それで驚いたのは、自分が読んだことのある本や知っている本よりも、知らない本が多いことだった。
 本棚に並べられている本は、実に幅広い。この本棚を見る限り著者の深い教養がうかがい知れる。翻って、自分の雑ぱくな読書傾向が恥ずかしくなるくらいで、大いに反省させられた。
 文章がいい。軽いしユーモアもあるから読み進むのが楽しくなるのだが、内容はずしりと重くて手応えは大きい。
 幾つか次に拾ってみよう。
 うちの本棚には、まだ読んでいない本がたくさんある。それが何より嬉しい。ぼくにとって本棚とは「読み終えた本」を保管しておくものではなく、まだ読んでいない本を、その本を読みたいと思ったときの記憶と一緒に並べておくものだ。
 いついつまでにこの本を読まなければならない、というのは大変な不幸です。
 本棚にはおしなべて「奥」というものがあり、……書物の奥行きに比して、本棚の奥行きがその二倍以上の余裕をもっているとき、自然と本棚は「手前」と「奥」の二重構造になる。……本にしてみれば、奥にしまわれることは大変に屈辱的である。
 もうひとつ、見知らぬ本と言えば、書店のカバーがかかったままの本がある。
 などとあって思わず頷くこともしばしば。
 それにしても、背表紙だけを眺めていても本はこれほど楽しいものだとは改めて知った次第だった。
(朝日新聞出版刊)

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