秋葉原日記 (ライブラリ)

池内紀『今夜もひとり居酒屋』

 著者はドイツ文学者であり、人気のエッセイスト。
 紀行ものでは『日本風景論』や『東京ひとり散歩』などと読んできたが、いずれにおいても観察は細かいのにとぼけた味があって好ましかった。市井に目を向けながら洒脱であるところもいい。
 本書はその著者によるこれは独自の居酒屋文化論。といっても決して堅苦しいところはみじんもなく、読んでいて思わず忍び笑いをしたくなるようなユーモアに包まれている。
 面白いし読んで楽しい。しかしこれは多分に自分が酒飲みで居酒屋通いになれているからであろうし、居酒屋などには興味はないなどという輩にとってはユーモアは感じないであろう。
 とにかく居酒屋に関するうんちくが一杯に詰まっているし、ある部分居酒屋考現学であるし、居酒屋学であり居酒屋哲学でもある。居酒屋のことなど取り立てて述べるほどのこともでないという向きもあろうが、居酒屋を論じて日本の文化、風俗に切り込んでいる。しかもその論考にいちいち同意できてうれしかった。
 居酒屋とはごく普通に飲み屋のこと。大衆割烹あるいは小料理屋と称される場合もあるし、赤提灯や縄のれんと別称されることもある。また、そば屋や天ぷら屋を居酒屋として活用しているケースもある。
 ここまでが居酒屋の規定みたいなもの。
 次に各論に入り、まずは居酒屋の構造について3分類。
 A カウンターのみ
 B カウンター+小上がりに小卓
 C カウンター+4人卓+奥(小)座敷
 A、B、Cに共通してカウンターの欠かせないのがとりわけ居酒屋の特色であるとし、「つまるところ居酒屋のカウンターは、主人と客がとりとめなく顔を見合わせ、とりとめのないやりとりを楽しむところであって、とりとめのないわりには、おかみさんを含め、わりと濃密な人間関係が成立している」と展開している。
 取り上げているテーマや話題は、後悔する店、小料理屋を考える、お品書きの研究、お通しの品格、おでん恋しや、珍味について、注ぎ方教室、こだわりの店、酒のサカナ、などと幅広く、居酒屋の全体像に迫っている。
(中公新書)

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