秋葉原日記 (ライブラリ)

オラフ・オラフソン『ヴァレンタインズ』

 著者はアイスランド出身でアメリカ在住。
 まずはその端正な文章に感心した。非常にシンプルで読んでいて静謐な物語世界が感じられた。物語は淡々と進むのだが、結末も予定調和的なものではなく凝った落ちがついていて不思議な緊張感に包まれている。また、上質のユーモアがあり、それも決して皮肉っぽくはないから読んで滑らかだ。
 12の短編が収められている。この12のストーリーには一月、二月と月名のタイトルが振られている。
 いずれも夫婦あるいは男と女の機微が描かれていて、多くは人生の蹉跌を味わうこととなる。なお、書名のヴァレンタインズは「恋人たち」と訳していいのらしい。
 一つ拾ってみよう。「一月」は10年ぶりに再会した男と女の話。男は相手へのお思いやりは深いものの愚図で鈍感。相手の振る舞いから自分への愛を確信できない女。結局、別れて音信もなかった二人だが、男はかつての上司から女の消息を聞く。再会した女は「あなた、いつも礼儀正しかったわね」と。はたして男は今度こそ決然とした行動をとれるのか。
 ほかに、夫の浮気から何とか立ち直ろうと努力する夫婦を描いた「二月」。うまくいくかと思えていた矢先にばれた意外な秘密。
 家族で別荘に出掛けた物語の「四月」。父親と一緒にボート遊びをしていた息子がおぼれ死ぬ。現場に居合わせなかった母親が知った驚愕の事実。
 などと、月名に合った情景を織り交ぜながら珠玉の12の物語が紡がれている。読後感もとても印象深い。
 ただ、登場する男女は女こそ主人公で、この物語を読むと、男としては男の浅はかさに苦笑いするばかりだから、この本をうっかり女房に読ませて同じようにやり込まれてもたまらないと考える男は少なくないのに違いない、そんなふうにも思えたのだった。
(岩本正恵訳、白水社刊)

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