秋葉原日記 (ライブラリ)

佐久間雄二郎歌集『夢に遊ぶ』

 作者は当社OB。現在もアルバイトの形だが再び手伝ってもらっている。関西支社勤務。
 もう45年も短歌とかかわっているそうで、とくにこの2、3年は作歌活動が盛んになってきているとのことで、このたび処女歌集を上梓する運びとなったもののようだ。「毎日歌壇」の常連というから実力も相当のものであろう。
 歌集には164首が収められている。
 幾つか拾ってみよう。
  カレンダーの予定記入に「職」と「病」ふたつの文字がほどよく散りぬ
  訊くだろうな「しんだらじいじはどうなるの?」お前の好きなわんこになるよ
  凍星の光はいたし今宵また足引き摺りて家路をたどる
  やうやうに逝ってくれたか気がつけば自分の心に嘘をついている
  葉牡丹は花も実もなしむらさきの芯の彼方に隠す寂しさ
 目立つのは死や病と向き合ったものの多いこと。目を背けずに絶望の淵からぎりぎりのところではい上がっている姿が浮かぶ。
 恋の歌も少なくない。何歳の頃の歌なのだろうか、はかなさに当方の気持ちまで揺り動かされるようだったし、還暦を過ぎてなおこのみずみずしさにはうらやましさを感じさせられた。
 また、日々のつれづれを詠んでは大きな広がりを感じさせてくれる。観察が行き届いているのである。
 いずれにおいても驚くほど率直で、作者の感受性の若々しさがうかがい知れる。歌を詠むと男もおのれをさらけ出すことに躊躇を感じなくなるのだろうかと思われて驚かされた。また、作歌の技術的なことについては何の知識もないのだが、立ち姿が自然体に感じられて好ましかった。
 作者とは同年代の同僚だが、勤務地が東京と大阪と離れていたせいもあってこれまで裸のつきあいというほどのこともなく、日頃はただその物静かさに感心をしているだけだったが、それだけに内面の葛藤を赤裸々に表現したことについては少なからず驚かされた。
 また、作者は前書きで歌を詠むことは逃避行動だったと記しているが、そうではなくて、作者にとっては歌を詠まなくては前に進めなかったのであろうし、それが作者の生き様だったのであろうと思われた。

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