秋葉原日記 (ライブラリ)

大沢在昌『絆回廊 新宿鮫 10』

 新宿鮫シリーズの長編10作目。1990年の第1作から21年、前作からは5年ぶりの最新作ということになる。
 新宿を舞台に新宿鮫こと新宿署鮫島警部を主人公とする警察小説だが、本シリーズの魅力は何といってもこの一匹狼の新宿鮫と世界最大の繁華街であろう新宿という舞台。また、毎作新しいネタが開拓されていて、シリーズを続けて読んでいると世相を反映した通俗社会の裏面史という趣となっているのも興味深いところ。
 本作の主題は絆。いったん結ばれたらどんなことがあろうとも裏切らない生き様が全編を通じて追求されている。登場人物たちはそれぞれに様々な絆を持っており、ちょっと古くさいテーマのようにも感じるが、深い絆を持っている者たちがうらやましくもなるようで新鮮さを感じた。
 鮫島が露崎という売人から拳銃をほしがっている男がいるという情報を得る。それも警官殺害が目的だという。それは復讐のためなのか。
 調べるうちにその男は60代後半の大男で、どうやら長い刑期を終えて出所してきたばかりらしいとわかる。
 しかも、新宿を根城とする暴力団の幹部吉田との関係が浮上。その吉田はこの10年ほどの間に急速にのし上がってきたのだが、それは独自の麻薬密売ルートを持っていることによるもののようだ。
 一方、本作の焦点は残留孤児たちのアイデンティティ。中国から引き揚げてきた残留孤児たちも2世3世の時代となったが、彼らは達者な日本語と流暢な中国語を操ることができ、複雑なアイデンティティを持つ。
 彼らのグループ金石(中国読みでジンシ)は新宿の裏社会では既成の暴力団にすらおそれられる存在。普段表面にでることはないが、徹底した秘密主義と先鋭的な暴力が特徴。
 この「絆」と「アイデンティティ」が交錯して暴力が連鎖する。
 この頃は警察小説大流行だが、この新宿鮫シリーズは今日の警察小説流行の先駆的存在で、しかもこの20年間一貫して衰えることのない人気を保っている。今や我が国エンタテイメント小説の第一人者と呼んでよい大沢在昌の地位を確固たるものとしたシリーズといってもよいだろう。直木賞も本シリーズ4作目『無間人形』で受賞している。
 主人公の新宿署鮫島警部は変わった経歴の持ち主で、本来国家公務員試験第1種合格警察庁入庁というキャリア組なのだが、組織への反抗ということなどがあって一所轄警察署にとばされていて、階級も入庁時の警部で停まったまま。
 しかも、行動は単独でがむしゃら。暴力団にすらおそれられた存在で新宿鮫はそのためつけられたあだ名。しかし、警察官としての使命感は強く、まっすぐに犯人を追い詰めていく。
 自分もこのシリーズが好きで第1作以来欠かさず読んできているが、体制に流されない主人公の生き様に共感を獲得し、ある種独特の情緒が好まれるのであろう。肩の凝らない娯楽小説である。
(光文社刊)
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