秋葉原日記 (ライブラリ)

「写楽」展

 東京国立博物館で開催中の「写楽」展を見た。
 写楽が好きで、その展覧会があれば必ずといってよいほどに足を運んでいるほどだが、この展覧会は圧巻だった。
 つまり、現在確認されているもの146点あるといわれている写楽全作品中何と142点が展示されていたのである。
 なお、残る4点のうち1点はつい先頃まで東京で別の展覧会(ボストン美術館浮世絵名品展)で展示されていたところであり、また、1点は個人蔵、2点は行方不明と解説にあった。
 これほどの写楽作品が揃うのは空前絶後のことと思われるが、出品作品リストをチェックしてみたところ、この展覧会のためにアメリカ・ボストン美術館、メトロポリタン美術館、シカゴ美術館、フランス・ギメ美術館、オランダ・アムステルダム国立美術館、イギリス・大英博物館などと世界中の美術館が協力してくれたもののようだ。
 その数30余に上っていたが、裏返してみれば、それほどに写楽作品は海外への流出が激しかったといえなくもない。
 また、会場には写楽のみならず歌麿や豊国などと同時期あるいは前後期の作品も展示されていて総数は287点にも達していて豪華だった。
 展示にも工夫が見られた。
 その一つ、同じ舞台に題材を採ったと思われるものが並べられて展示されており、例えば<三代目沢村宗十郎の大岸蔵人>では写楽のほか勝川春英、歌川豊国の3人の競作となっていて、とても興味深いものであった。
 宗十郎はなかなかの二枚目で人気役者のようだったが、この中では写楽の作品がある種とぼけた味もあってリアリティが際だっていた。
 また、同じ写楽作品でも刷りの違うものが並べられて展示されていたが、退色の激しい浮世絵にあっても鮮やかな刷りのもので見るとまた印象が違うように思われたほどだった。特に、背景に黒雲母刷りを使用していて写楽作品をいっそう魅力的にしていた。
 それにしてもやはり見応えのあったのは、写楽作品が第1期から第4期へとその全貌がわかるように展示されていたことだった。
 写楽は、寛政6年(1794)5月から翌年にかけてわずか10ヶ月の間だけ作品を残していて、その活動期間の短さ、全く記録の残っていない作者像などから「謎の絵師」と呼ばれているが、写楽全作品を一覧すると、わずか10ヶ月の中だけでも作風が随分と変化していることに気づかされる。
 すなわちデビューしたての頃の第1期の大首絵から、その後の全身像中心へと変化していくのだが、全盛期は早くも第1期と思われ、終いにはこれが写楽かと思わせられるほどにつまらなくなっていて、かねて写楽は大首絵にこそ真骨頂があると感じていたことを再確認したようなことだった。
 では、写楽の魅力は何か。写楽作品は歌舞伎の舞台と役者を描いたものが大半だが、写楽はその舞台の一瞬をとらえていて、表情が豊かだ。演じられている歌舞伎の舞台のことにも知識が及んでいたら、写楽は役者の内面にも迫っていたことがよくわかるのであろう。
 人物像を描いてこれほどにもその一瞬を内面からえぐり出した作者は世界的にも少ないのではないかとも思われる。もちろん役者像だから化粧を施してもいるし、役柄を演じている場面であればこそという誇張もあるのだろうが、写楽作品には単なる役者のブロマイドにとどまらない魅力がある。
 <初代尾上松助の松下造酒之進>など落魄した浪人ものの心情が伝わってきて、思わず当方まで感情移入させられそうになったほどのリアリティが感じられた。
 一方、同時に展示されていた作品の中では、喜多川歌麿の<難波屋おきた>が気に入った。おきたは当時評判の美人だったらしいが、団扇を持っているところから夏の情景とおぼしいが、細密に描かれた着物の絣模様がいっそうその情景を際だたせている。
 歌麿の美人画もすばらしいもので、写楽とどうかというよりも、これはもう好き好きというしかない。

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(東洲齋写楽<初代尾上松助の松下造酒之進>=会場で販売されていた絵はがきから引用)

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