秋葉原日記 (ライブラリ)

野地秩嘉『日本一の秘書』

 サービスの達人の副題のもと、一流ホテルのドアマン、上場企業カレー屋の社長秘書、似顔絵刑事、ヒーローキャラクターの演技者、クリーニング店の店主、焼鳥屋の主人、富山の薬売りと7人の人物が取り上げられている。
 著者によると、飲食店などのように一般にサービス業と呼ばれている人たちに限らず、医者や公務員などとおよそ21世紀の日本で働いている人たちはみんなサービスと関係しているということで、客に対して理性と情緒の両面に訴えることが上質なサービスにつながると述べていて、そのためにはまずサービスの技術を覚え、そして客の気持ちに思いを致すことだと展開している。
 7人の登場人物たちの中で興味深かったのは似顔絵刑事。
 似顔絵を描くことを得意とする警察官のことだが、大半は鑑識課などに所属し、似顔絵担当として業務にあたっているのだが、中には会計課で計算業務などをしながら必要に応じて似顔絵を描いているような警察官もいるとのこと。
 ここに登場する似顔絵刑事はすでに定年退官しているが、かつては千葉県警で刑事部鑑識課に所属し似顔絵担当に従事、30数年間の生涯のうち3千枚を描いたという腕利き。日本の警察史上初めて捜査用似顔絵の腕で広域技能指導官に任じられたほど。
 この似顔絵刑事はこどもの頃から絵が得意だったそうで、警察官となってしばらくして鑑識課に配属され、ある時資料のイラストを描いたところ刑事課長が「おまえは絵がうまいな」ということで似顔絵担当の道に入ったものらしい。
 似顔絵というと、捜査資料としてモンタージュ写真も連想するが、この頃ではモンタージュ写真を使うことは少なくなり、似顔絵が主流となっているということである。
 この似顔絵名人が後進に指導して言うことは「雰囲気を描くこと」。
 そして、捜査用の似顔絵は目の前の人の顔を描くわけではなく、会ったこともない人の顔を他人の話を聞いただけで想像して描かなければならないとし、そのためには、デッサンの能力よりも、犯人の特徴を聞き出す力、聞き出した情報から顔かたちを想像する能力が必要だと述べている。
 取り上げられた人物たちは、いずれも特異な技能を持ち、その道に秀でた人たち。だから、ある部分仕方がないとも言えるのだが、ストーリーが成功譚にばかりなっていて、全般に平面的な読後感となってしまった。これでは、このストーリーをもとに似顔絵を描くことは難しいのではないかとも思われた。
(新潮新書)

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