秋葉原日記 (ライブラリ)

原武史『鉄道ひとつばなし3』

 人気シリーズの3冊目。
 相変わらず鉄道に関するうんちくが詰まっているし面白い。
 近代日本と鉄道、世相と鉄道あるいは文化としての鉄道、さらに団地のことや私鉄文化論などと独自の視点からのとらえ方もこれまで同様でこの人ならではのこと。
 また、著者は日本近現代政治思想史を専攻する学者だが、渉猟した豊富な史料から鉄道を読み解くことではこの道第一人者。
 本書で紹介されている天皇陛下がつくばエクスプレスに乗ったというエピソードは不覚にしてこれまで知らなかった。
 2008年11月にスペイン国王夫妻とともに天皇、皇后両陛下はつくば市を訪問したが、その際、往路はJR常磐線でJR東日本の新型お召し電車を利用したのに対し、復路はつくばエクスプレスだったという。
 このときのつくばエクスプレスの運行は臨時の団体専用電車扱いだったとはいえ、通常の車両と変わらない6両編成の電車だったということであり、「おそらく、現天皇が通勤型車両に乗ったことは、ほとんどなかっただろう」ということである。
 つくばエクスプレス乗車を可能にしてのは、全線が地下か高架で踏切がなく、全駅にホームドアがついていて警備がしやすいからで、同じ条件を満たせる線はほとんどないところから、今後も他線でも通勤型車両に乗ることになるかというとそう簡単ではないと指摘している。
 とにかく鉄道に詳しい。よく鉄道にも乗ってあちこちと出かけている。
 著者も指摘しているように、内田百けん(門構えに月)、阿川弘之、宮脇俊三と続く我が国鉄道紀行文学の系譜を引き継げる者は誰か。
 今日の状況を見渡すとこれはなかなかの難題で、本書著者である原武史などもその候補者の1人のように思える。
 その場合、著者に欲しいのはユーモアであろうか。内田、阿川、宮脇には巧まざるユーモアがあったが、本書でも残念ながらユーモアはまったく感じられなかった。
 また、鉄道旅行そのものも楽しんで欲しいと思う。著者の鉄道の旅は、まるで歴史資料でも探しに行くような趣であり、車窓から見る風景にもいちいち理屈が必要なように思われてならない。
 「鉄道と読書」のくだりでも、通勤電車が読書環境によいことはまったく同意できるが、せっかく2階建て車両のグリーン車に乗っても、読書のためには2階席よりも1階席のほうが集中できてよろしいというのは肯けない。グリーン車で通勤したことがないので詳しくはわからないが、実際その通りなのであろう。
 しかし、自分などは車中読書は大変好きだが、車窓に目をやっているのはもっと好きで、それも見晴らしのよいグリーン車の2階ともなれば、読書をしているのがもったいないと思うほどだ。
 結局、本書を読んで鉄道による旅に出てみたい、そう思わせられないところがはなはだ残念だった。
(講談社現代新書)

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