秋葉原日記 (ライブラリ)

指宿枕崎線

 このたびの九州旅行では全線開業した九州新幹線を乗りつぶした後は翌4月30日指宿枕崎線に乗った。
 指宿枕崎線は、鹿児島中央駅から枕崎駅を結ぶJR九州の路線で、87.8キロの全線が非電化単線というローカル線である。また、JR線としては最南端を走る路線でもある。
 途中、温泉地で名高い指宿までは特急列車もあるし、鹿児島への通勤圏に入る山川まではそれなりの運転本数があるのだが、その先、枕崎までとなると山川での乗り継ぎを含めても列車は1日に6本しかなくなかなか不便だ。何しろ枕崎に行ける列車は早朝4時51分の次が9時59分で、この間、5時間もの間がある。
 鹿児島中央7時51分発山川行き快速なのはな号山川行き。列車愛称通り黄色一色に塗られた車体で、4両編成のディーゼルカーワンマン運転。定刻通り4番線から発車したが、土曜日の下りということもあって乗客は高校生らがわずかに乗っているだけで空いている。これで4両編成はもったいないが、折り返しの上りの混雑を見越したのだろう。実際、途中ですれ違った上り列車では立っている人もいて満員の様子だった。
 指宿枕崎線は、薩摩半島を半周するような路線で、初めは鹿児島湾の西岸を南下し、開聞あたりから東シナ海に面する。
 鹿児島中央を出てしばらくは宅地化の進む郊外という様子だったが、慈眼寺を出て左窓に桜島が見えてきた。五位野を過ぎて鹿児島湾が大きく広がり、対岸には大隅半島が霞の向こうにうっすらと遠望できる。湾内だし波は非常におだやかだ。鹿児島湾はなかなか大きな湾で、東京湾や陸奥湾などよりも広いのではないか。
 指宿8時57分着。ここで途中下車した。ちょっと早い時間帯ではあるが温泉でひとっ風呂浸かろうというわけ。
 指宿温泉は、摺ヶ浜温泉などの温泉群の総称で、鹿児島県内でも有数の観光地。椰子の木やシュロの木が街路樹となっていていかにも南国風だ。
 ここは少し掘るだけで高温の温泉が湧き出すのだそうで、このため砂浜では砂蒸し温泉が人気だ。ただ、時間がなかったし面倒なことが嫌いでもあって自分は砂蒸し風呂には入らなかった。
 それで、元湯温泉という公衆浴場に入った。摺ヶ浜温泉の一角、住宅街の中にあり、周辺住民の共同浴場というものだった。入浴料300円。
 時間帯が中途半端なせいかほかに客は誰もいなかった。と、この風呂が実に熱い。源泉72度、泉温62度とある。とても熱くて入れないので元栓をしばし止めさせてもらって調整した。それでも45度以上はある。熱いのが好きな自分だからこれは満足だった。
 お湯は少し青みがかっており、なめてみたらわずかに痺れた。ナトリウム泉の特徴であろう。
 湯上がりの汗がいつまでたってもなかなか引かなかった。番台の女将が「ここの温泉は湯冷めはしないのですよ」と言っていた。
 指宿からはバスで西大山まで先回りし、鹿児島中央を9時59分に出た列車を待つことにした。
 バスは途中山川を経由したが、山川からは対岸大隅半島の根占にフェリーが出ていて、ここからは半島の南端佐多岬へバス便がある。かつて訪れたことがあるのだが、この岬は日本でも情緒ある岬の一つと言えるだろう。
 バスを徳光という集落で降りて、西大山まで歩いた。30分ほどもかっかったが、開聞岳に向かって歩くのはなかなかいい気晴らしになった。
 西大山駅は、JRの日本最南端駅。沖縄都市モノレールの赤嶺駅ができるまでは日本最南端駅だった。
 開聞岳の麓に位置するなかなか情緒あふれる駅で、これほど写真を撮って絵になる駅も少ないというところだ。
 これまでに2度訪れていて今回が3度目だったが、それで驚いた。駅が観光客で一杯なのだ。それが自動車で来た人が大半で、観光バスまで横付けされている。
 無人駅なのだが、花壇があったりときれいに整備されていて、開聞岳をバックに記念撮影をしている。
 東西南北日本最端駅はすべて何度も訪れているが、どこも一握りの鉄道ファンがひっそりとたたずんでいるだけでこれほどのにぎわいはほかでは見られない。わがままを言うようだが、これでは風情もないし、正直なところ苦笑させられた。
 11時56分発で再び列車に乗り枕崎へ。この西大山から列車に乗ったのは結局自分一人きりで、やはりあのにぎわいが全員自動車で来た連中だったのだ。鉄道駅を自動車で訪れるというその屈折した感覚は自分にはわかりにくい。
 列車は開聞岳を回り込むように走る。円錐形の山容をした独立峰で、360度均等に流した裾野が実に美しい。頂上付近は傘のような雲にすっぽりと覆われていた。あるいはこの後雨が来るかもしれない。
 このあたりはこの路線の白眉で、その美しさは全国鉄道の中でも絶景路線といえるだろう。
 車窓左右には畑地が広がる。温暖な気候を利用し旬の野菜をいち早く収穫できることで知られている。また、時折見える田んぼではすでに田植えが終わっていた。これも早い。あるいは2期作なのかもしれない。
 12時49分定刻枕崎着。降り立った乗客は10数人に過ぎないが、大半は旅行客それも鉄道ファンのようだった。
 この駅で降り立つのは3度目だが、駅舎がなくなっていた。駅前を再開発するために駅自体が200メートルほど手前に移動したらしく、その際、駅舎のないホームがあるだけの無人駅となったらしい。
 5年前のことらしいが、何とも情緒のないこととなってしまった。もともと、稚内や根室と比べては最果てという印象には薄いところではあったが、それにしても、日本のすべての鉄道の終着駅という風情までも失ってしまったようで残念だ。なお、駅の看板には最北端駅稚内までは3140キロメートルと表示があった。
 まずは、お昼にカツオ丼でもいただこうと歩き出したら雨が降ってきた。開聞岳の傘は予想通りだったのだ。

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(JR最南端西大山駅)

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