秋葉原日記 (ライブラリ)

川口淳一郎『はやぶさ、そうまでして君は』

 小惑星探査機「はやぶさ」が7年6ヶ月もの歳月をかけ、地球から3億キロも離れた小惑星イトカワとの間を往復し、イトカワ起源のサンプルを回収して帰還したことは、我々日本人にかつてない大きな夢と感動を与えてくれたし、日本の科学技術が世界に先駆けて成功させたことは我々に大いなる自信ももたらしてくれた。
 この「はやぶさ」については、新聞やテレビなどで報道されるたびに大きな関心を持って見つめてきたし、帰還してからはもう少しまとまった解説も欲しいものだと願ってもいた。
 ただ、「イトカワ」に関する報道や雑誌、単行本の発行もおびただしいものの、これまでは今一つ購入に至る動機付けとなるものに当たらなかった。
 そこに本書の刊行である。著者は「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーであり、著者のことはテレビなどでたびたび見ていたので親しみもあり、早速手に取った。
 「はやぶさ」は、2003年5月に打ち上げられ、2年4ヶ月に及ぶ惑星間航行を行って2005年9月イトカワに到着した。そして2007年2月に地球に向けてイトカワを出発し、2010年6月13日ついに帰還した。往復距離は実に6億キロ、7年を超しての往還だった。
 本書には、この「はやぶさ」の開発の背景と経緯、打ち上げから帰還までの模様、「はやぶさ」の意義などが詳しく紹介されている。
 記述は一般向けにやさしく丁寧だし、ストーリーは満身創痍の帰還だったというそのままに、まるで波瀾万丈のドキュメンタリーを読んでいるような面白さだった。また、著者の「はやぶさ」に対する強い思い入れや激しい感情移入もあって、およそ工学者らしからぬそのこともかえって親しみが増してよかった。
 「はやぶさ」の目的は、イトカワからサンプルを採取し地球に持ち帰るそのこと。
 これは世界初の挑戦であり、「このプロジェクトはNASAでさえやったことのないことで、人類が月面に着陸したことと同じくらいの意味がある」と述べている。
 また、小惑星は同じ太陽系の仲間であり、イトカワは太陽系の化石みたいなもの。つまり、このサンプルリターン計画によって太陽系の起源ひいては地球の起源を探ることとなるのだという。
 「はやぶさ」は初めてづくしだったようだが、航行のポイントはイオンエンジンだったらしい。これは燃料と酸化剤を燃焼させる従来の化学推進エンジンとは違って、キセノンガスによる電気推進エンジンというのが特徴で、搭載ガス重量も化学エンジンならば700キロ必要なところをわずか10分の1の66キロで済ませられるもので、きわめて燃費のいいエンジンとのこと。
 興味深かったのは、このプロジェクトが加点法でとらえられていたこと。
 従来この種のミッションは成功した場合を100点と設定し、どの程度までの達成だったのかをはかる減点法が一般的だったのに対し、加点法では、イオンエンジン稼働開始50点、イトカワとのランデブー200点、小惑星の科学観測250点、小惑星サンプル入手500点などと設定されている。
 これは技術検証を積み上げていく方式で、「この加点法の評価は、技術的な大きな壁を乗り越え、世界で主導的な立場を目指そうというもので、画期的だった」と述べている。
 そして結果としてこの「はやぶさ」プロジェクトはほぼ満点に近い成果を上げたわけである。
 著者は、この「はやぶさ」について、構想から25年、プロジェクト発足から15年、そして「はやぶさ」と過ごした7年間の長きにわたって携わってきたというから多少の感情移入も思い入れも許されるであろうし、我々としても大きなロマンをもらったわけで印象深いプロジェクトとなった。
(宝島社刊)

hayabusa.jpg

バックナンバーへ

お勧めの書籍