秋葉原日記 (ライブラリ)

ブーダディヴァ・ボース『駅舎にて』

 舞台はインド北部のベンガル地方のとある駅。
 厳寒の12月、列車脱線事故のため足止めを食い待合室でたまたま一緒になった4人の中年男。
 いつ復旧するかもしれぬ列車を待っているうちに、一人ひとりがそれぞれに若かりし日の思い出話を語ることに。
 1人目は、巨体の建設業者。両親の期待を一身に担って一族として初めてカレッジを卒業し学士となったマカーンラル。事業が順調に発展している現在、母親の願いは息子が教養ある子女と結婚すること。目を付けたのは隣家に住む大学教授の娘。
 母親がその隣家に息子との結婚話を持ち込むとあろうことか一蹴してきた。逆上する母親。しかし、マカルーンはかねてからその娘には遠くから片思いを寄せてきたのだった。
 時が経ち、マカルーンの成功した事業はいいよ隆盛し、一方で、大学教授の家では貧困が重なり、とうとう家を立ち退かねばならなく羽目に……。(章題「片思い」)
 2人目はデリーの官僚で、軍の高い地位にある。バランは少年時代幼なじみのパキーに恋をした。パキーもバランに恋心を抱いていた。
 しかし、バランはその後故郷を出て大学へ入り、大学院へと進学する。再開したのはパキーの結婚式の前夜で、パキーはバランにそっとキスをして立ち去っていった。
 バランはさらに英国へ留学したりして家族を持ち官僚となっていたのだったが、バランがパキーに最後にあったのは、パキーの娘の結婚式の時だった……。(章題「憧れ」)
 3人目はカルカッタでも高名な医師。依頼を受けて往診した相手は演劇グループの若い娘だった。診察したところけがや病気らしいところもなくて要するに恋の病だったのだ。
 ビナの恋の相手は友人のラメンだが、ラメンにはまったくその気が見られない。
 二人の世話を焼いているうちにいつしかビナと親しくなり、ついにはビナは自分に対し愛を告白することに……。(章題「結婚」)
 4人目は作家志望。仲のいい3人の少年は揃って1人の娘を好きになった。毎日用もないのにアンタラの家のまわりをうろつくばかり。
 3人はアンタラのことをいつしかモナリザと呼ぶようになっていたが、しかし、3人は結局モナリザの本心を知ることなしに、時を経てモナリザは結婚することに……。(章題)「幼なじみ」)
 タイトルがよかったし、「奇跡の純愛小説」という帯の惹句にもそそのかされて本書を手に取った。装幀も内容に似つかわしそうでとてもいい雰囲気を醸し出していた。世界中で注目されているインド・ベンガル文学というコピーも気になった。
 本書は4人の男が紡ぎ出すオムニバスで、いずれも珠玉の掌編ばかり。中年男が自分の若き日の恋物語を語るということはなかなかあることではないだろうが、こういうエピソードなら自分にもあったのだったと思い起こさせるだろう。(飛田野裕子訳)
(あすなろ書房刊)

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