秋葉原日記 (ライブラリ)

安藤良夫『原子力99の謎』

 このたびの大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所の事故。
 プラント建屋の爆発があり、放射性物質による大気と水質への汚染があり、国民の不安は最高潮に達している。原発とはどういうものかわかりにくいところもあって不安は一層増幅されている。
 新聞やテレビでは事故の内容や原因から原発そのものに関する解説もおびただしい量にわたって行われているが、原子力についてもう少しまとまってやさしく解説したものはないかと思って書棚を探して見つけたのが本書。
 本書の刊行は昭和52年(1977年)で、産報ブックスの99の謎シリーズの1冊として産報(現・産報出版)から発行された。
 著者は東京大学教授(当時)で、専攻は原子力構造工学、溶接工学。原子力船むつ改修技術検討委員会委員長などを歴任した。
 安藤先生は3年前に物故されたが、実は、安藤先生とは自分も随分と昵懇にさせていただいていて、今でも巨体を揺すりながら原子力発電の推進に腐心されていた当時を思い起こす。
 さて本書である。99の設問に対しやさしく回答していて、一般向けの解説書となっている。
 事故を起こした原発は沸騰水型原子炉(BWR)で、加圧水型(PWR)に比べ簡単な構造だが、たくさんの機器を原子炉格納容器の中に内蔵するため大型になる。なお、いずれも軽水炉だが、この軽水とは一般の水のこと。
 また、BWRでは原子炉で加熱された1次系の水が蒸気となって直接タービンを駆動させる仕組みで2次系がない。これに対しPWRでは2次系の蒸気がタービンを駆動させるので、タービンそのものに遮蔽はいらない。
 汚染で問題となっている放射線と放射能の違い。原子核が変化するときに放射線を放出する現象を放射能といい、放射能をもった物質を放射性物質という。
 本書には、「原子炉の暴走を止めるものは何か」という設問があって、技術的見地からみて最悪の場合には発生するかもしれないと想定している事故に、1次冷却系の主配管が切断され、1次冷却材が炉の外へ流れてしまう冷却材喪失事故があるとしている。
 また、「自然災害からどう防護するか」という設問もあって、そこでは津波、台風、地震、洪水など自然災害に対する防護について述べている。
 それによると、原子力プラントは関東大震災の3倍の地震が起きても原子炉は壊れないよう設計されており、津波なども考慮して水浸しになることがないよう敷地高さがとられていると述べている。
 原子力プラントについては、工場における製作時から現地での据え付け工事に至るまで各段階を幾度か見学をしたことがあって(そういえば安藤先生とは中国電力島根原子力発電所現地工事の見学にご一緒させていただいたことがあった)、その際には、板厚150ミリにもなる頑丈な原子炉圧力容器に加え、膨大な数に上る配管類があって、まるでパイププラント構造物かという印象だったし、工作上徹底した品質管理に感心をしたものだった。
 このたびの福島の事故では、地震による直接の被害もさることながら大津波の被災による影響が大きかったように思われるが、ともあれ、原発に関しては「想定外」ということで逃げてはならないというのが原子力に強い懸念の残る日本においては常識だし、もし、想定外があるとすれば、どこからどこまでなのか、事前に示すことが必要であろう。
 もっとも、コストを考慮しなければ技術的には限りなく想定外を消すことは可能だが、事故発生に対応する政府と東電のお粗末ぶりまでは想定することは困難であっただろう。
(産報刊)
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