秋葉原日記 (ライブラリ)

朝吹真理子『きことわ』

 このたびの芥川賞受賞作。
 25年前と現在がいったりきたり絡み合って進む。あるいは夢と現実が混然となっていて時々時空を越える。
 とは言いながら話は簡単だし、文章も難解というわけでもない。ただ、たくらみに満ちている。題名の「きことわ」にしてからが、主人公の貴子と永遠子からとったことは容易に察せられる。
 貴子8歳、永遠子15歳。
 貴子は夏になると葉山の別荘に母親らと滞在する。永遠子は母がその別荘の管理人をしているところからたびたび遊びに出かける。貴子と永遠子はまるで姉妹のように仲がよい。
 しかしその後二人の成長に伴って疎遠になっていたものだが、別荘を手放すことになって、貴子と永遠子は25年ぶりに再開する。
 これだけのことだが、二人の髪がとけあい、手足が絡み合い、雨が降り、デボン紀の化石が出てき、ムカデが這い出し、蓮根の料理になり、ついには「自分が惑星に住んでいることをひさしく忘れていた」などということになる。
 なかなか味わいのある文章で、新人とは思われないうまさがある。繊細だし、文学的香気が感じられる。
 2度読み返した。2度目にはやっとリズムがとれるようになってきた。
 ただ、漢字の当て方が独特で、漢字を当てるのが少なかったり、逆に難しくて読めなかったりもするし、意味のわからない表現もあった。
 痙(けい)に「つる」という読み方を当てている。おそらく大きな辞典にもその読みは載っていないのではないか。
 「あえかなもの」の意味がわからず辞書を引いたら広辞苑に、かよわくなよなよしたさま、とあった。源氏物語に原典があるらしい。
 だから、読んでいて滑らかさに欠けた。
(『文藝春秋』3月号所収)

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