秋葉原日記 (ライブラリ)

角野栄子『ラスト ラン』

 著者のことは不覚にしてこれまで知らなかった。著作が150作以上にも上る児童文学の人気第一人者だという。
 しかも、宮脇駿監督のアニメーション映画『魔女の宅急便』の原作者だという。『魔女の宅急便』はすばらしい映画で、20年ほど前になるか、当時まだ子供だった娘たちと繰り返し何度も見ていた。情感豊かな映画として今でも印象深く残っている。アニメーション映画の最高傑作であろう。
 その著者のこれは自伝的小説とある。どんな物語かわくわくしながら読んだ。
 主人公は74歳のイコさん。残りの人生をおだやかに過ごすなんていやだといってオートバイのツーリングに出る。
 そのための準備。まずは250CCの真っ赤なバイクを購入。ついでにヘルメットも真っ赤なフルフェース。ライダースーツは真っ黒な革。
 すごくかっこいい出で立ち。さあラストランだ。免許は23歳の時にとってある。
 はて行き先は。
 戦災ですべて焼けてしまった持ち物。唯一残ったのが「岡山県、川辺、北村ふみ子 一二歳」と裏面に書いてある写真。ふみ子はイコさんが5歳の時に死んだ母の名前。
 ほとんどない母の記憶。だから、12歳の女の子の写真がただ一つ母の姿だった。しかも母の生涯は30年足らず。
 写真に写っている家は相当に古びているし、過ぎた時間の長さを考えるとこの家がこの町にまだあるとも思えないが、もしあれば、その場所に立って深呼吸の一つもしてみるのもいいかもしれないとまずは川辺を目指す。
 川辺に着くと北村という家は現存していた。
 そこでやせた女の子に呼び止められた。見ると、写真の女の子である。名前はふみ子、「ふうちゃんって呼ばれてる」と。
 自分は幽霊なのだと。人間は死ぬと49日までは幽霊となるが、この世にどうしても消せない心残りがあるといつまでも幽霊から抜けきれないのだとも。また、幽霊は人間からは見えないはずなのに、イコさんには見える。これも不思議。
 ここからはイコさんとふうちゃんとの旅が始まる。
 イコさんにはふうちゃんの心残りが娘のことかもしれないと思う。だからあの写真を見せて娘がこんなおばあちゃんになっていることを教えてあげれば、ふうちゃんの心残りが解決されて、幽霊から解き放されるかもしれない。
 そしてイコさんとふうちゃんの二人の旅の終わりは、イコさんの家に向かおうということになる。
 しかし、それは旅の終わりではなく、「私のラスト ランは、私たちふたりの始まりに続いていた」のだった。
 『魔女の宅急便』は、13歳の少女キキが黒猫のジジをお供に見知らぬ町で独り立ちをしていく物語だった。
 本書『ラスト ラン』は、アイデンティティを求めるイコさんが、はからずも交差したふうちゃんと旅を続けていく姿を描いた。
 30年を経て紡がれたこの二つの物語は、一人、旅に出した娘がしっかりと成長し、母の心残りも、娘の気がかりも片付いて、ともにおだやかなラストが印象的である。前向きに未来を見据えハッピーエンドで終わる物語は、いつでも読んで幸せにしてくれる。
(角川書店刊)

last%20run.jpg

バックナンバーへ

お勧めの書籍