秋葉原日記 (ライブラリ)

恵山岬

 このたびの函館旅行では恵山岬を訪ねた。
 恵山岬は、北海道の南部、亀田半島の突端にある。
 道南地方は、地図で見るとクジラの尾びれにも、人間の足の形にも似ているが、その全体が渡島半島で、このうち、西側つまり甲からつま先にかけてが松前半島、東側つまりかかと部分が亀田半島にあたる。函館は土踏まずのあたりである。
 恵山岬には、函館からレンタカーを借りて乗用車で向かった。
 この日は、週間予報でも、前日の予報でも天候は大雪となっていたが、朝起きてみたら快晴無風。日差しもあって路面の凍結もなかったから絶好のドライブ日和で、晴れ男の面目躍如といったところだった。
 函館駅前を朝の8時30分に出発。しばらくは津軽海峡を右手に見ながら国道278号線(通称恵山国道)をひた走る。
 沿道の住宅はおしなべて新しいものが多いように見受けられる。豪華とか高級というようなものでは決してないが、古びたものがほとんどない。まるで津波か地震にでも遭って一斉に建て替えられたもののような印象だ。
 恵山への道のりの半分頃、汐首岬を通過した。ここは津軽海峡にもっとも突き出た岬で、対岸に下北半島大間崎が遠望できた。
 海上直線距離でいったら、青函トンネルが通っている龍飛岬‐白神岬間よりもこちら大間崎‐汐首岬間の方が短いのではないか。
 国道を車で走っている分にはここに岬があるとは気がつきにくく通過してしまうが、注意して観察していたら国道脇の山の上に汐首岬灯台がちらっと目に入った。
 また、岬からもう少し先の戸井の集落のあたりでは、やはり丘の中腹にコンクリートのアーチが数連つながっているのを認めることができた。
 これは旧・戸井線の遺構で、戸井線は戦時中、軍需物資の輸送を目的に函館‐戸井間の路線が建設されていたものだが、ただ、戦争が激しくなり物資も不足するなどして工事は中断、約9割の工事は完了していたといわれるが、結局、戦後も再開されることはなく未成線となっていた。
 さらに進むと恵山の集落。国道は恵山岬には直接通じてはいなくて、集落を左折して恵山のすそ野を回り込むようになっている。
 椴法華(とどほっけ)の漁港に出るとそこはもう太平洋。ここを右折し急坂を登ると恵山岬はすぐだった。この間、函館から約50キロ、1時間の道のりだった。
 恵山岬は恵山の裾野が海に尽きるところにあった。突端に恵山岬灯台があり、この周辺は公園として整備されていた。一面が雪に覆われている。
 灯台は白亜で、灯塔が太くややずんぐりとしている。繊細さは感じられないが、いかにも激しい風雨に立ち向かう力強さが感じられた。てっぺんには風見鶏が取り付けてあったが、これは灯台ではなかなか珍しい。座標は北緯41度48分55秒、東経141度11分00秒。
 灯塔に昇ることはできないが、眼前には遮るもののない大海原が広がっており、ここで津軽海峡と太平洋を分かっている。
 断崖絶壁というわけでもないし、この日は快晴でもあったからか、冬の北海道の岬とは信じられないほどに風もなくおだやかな風景となっている。
 灯台からほんの少し足を伸ばすと、水無海浜温泉というものがあった。これは波打ち際に岩を組んで造った露天風呂。無人だが、脱衣所が設置してある。この頃の温泉ブームに対応したのだろうが、この日は冬でもありもちろんほかに誰もいない。
 満潮になると波に覆われて隠れてしまうという温泉で、波打ち際から段々に3つの湯船があるはずだが、この日は午前10時過ぎに訪れたのだが、下の2つはすっかり水没し、一番上方に位置し最も大きな3つ目の湯船もわずかながら波にさらわれていた。
 手を入れてみるとぬるい。とても入れたものではない。
 実はここを訪れたのは2度目で、前回は干潮時だったから3つの風呂ともに入浴できたのだった。
 一番下がぬるく、逆に一番上は熱いくらいで、2番目の湯船から温めのお湯を汲み上げて適温にしたのだった。
 温泉は足下から湧いていて、源泉は50度ということである。あの時はほかに見とがめられることもなく、野趣あふれる温泉にのんびりと浸かったものだったが、ほぼ海面とほぼ同じ目線でお風呂に入るというまれな経験をしたものだった。
 一方、灯台のそばにはホテル恵風という、椴法華公営の温泉があった。恵山は活火山だし、このあたりは温泉も多い。波打ち際の露天風呂はあきらめたから、このホテルの日帰り入浴に立ち寄った。
 これは大当たりだった。ここの共同浴場には大小、露天などと5つもの風呂があって、それぞれに源泉も違う。
 内湯に入ると、大浴槽には「中温41℃‐43℃」と表示がある。まずはこれに入った。なかなかいい湯加減だ。入浴客は全員この浴槽に入っている。源泉は炭酸水素塩泉で、源泉温度は60.2度とある。
 次に小浴槽に移った。こちらは「高温44‐46℃」とあった。どうかなと思って入ってみたが、ちょっと熱いがとてもいい。45度か46度くらいか。もともと熱い湯が好きなのだから、大変気持ちいい。まるで極楽の気分だ。ナトリウム塩化物泉で、源泉温度は58.4度とあり、源泉掛け流しである。
 休日でもあったし、地元の人たちが朝から入浴に来ている。
 この熱い方の風呂にのんびりと浸かっていたら、「あんたよくその熱い風呂に入っていられるね」と驚かれた。地元の人でも入る人は滅多にいないとのことだったが、自分にとってはまさに上々、これほど自分好みの温泉に入れるとは滅多にないこと、大満足だった。

esanmisaki.jpg
(雪原に立つ恵山岬灯台)
  

バックナンバーへ

お勧めの書籍