千葉市のホキ美術館に行ってきた。写実絵画が専門の美術館として昨年11月の開館以来大変な評判だ。
東京から向かうと千葉駅で外房線に乗り換え普通電車で約25分、土気(とけ)駅下車。駅前からバスに乗ること約5分。いかにも新興住宅地といったところに美術館はあった。ここは昭和の森公園という大きな公園に隣接しているらしい。
開館から2ヶ月余を経て人気はやや下火となってきたのか、この日は朝のうちに雪が降るなどしてことのほか寒かったせいなのか、日曜日だったにもかかわらずさほど混んではいなかった。
この美術館、外観を見て大変ユニークな建物だなと感じていたが、なるほど、中に入ってその構造の意味がわかった。
つまり、ギャラリーがすべて緩やかにカーブした回廊になっているのだ。フィレンツェのウフィッツィ美術館にヴァザーリの回廊というのがあるが、ここのように展示室がすべて回廊形式というのも珍しい。回廊は地上1階地下2階の3層になっていて、その総延長は500メートルにもなるということである。
さて、その回廊を進んでみよう。
一番最初に出迎えてくれたのは生島浩「card」という作品。思わず感嘆の声を上げてしまった。若い女性がカード占いに興じている様子だが、実に美しい。まるで写真のようにも見える。フェルメールを連想するが、フェルメールよりももっと緻密だ。
このような絵画がずらり並んでいる。
それにしてもどのようにして描いたのだろうか。髪の毛1本に至るまで精密に写実していてとても油絵とは思われない。一般の油絵のように厚く塗り重ねるということはしないようだ。その超絶技巧には驚嘆するばかりだ。
何でも一つの作品を仕上げるには数ヶ月もかかるということだから、画家にもよるのだろうが、印象派のように感じるままにさらさらと描くというわけにはいかない。
あまりにも現実そっくりなので、そばで見ていた若いアベックが「写真とどこが違うのよ」と話していたが、なるほどどこが違うのだろうか。
写実絵画も写真もどちらも創作なのだが、光と陰の使い方が絵画の方が意図的だということ、また、質感を絵画はより強調しやすいということ、そういうことは言えるだろうか。だから、写実絵画では現実以上のことが語られているとも言えそうだ。
この美術館は館長である保木将夫氏が収集したコレクションを展示するために開設した私立の美術館なそうで、コレクション数は約300点にもなるということ。この日は40人の日本人作家の作品約160点が展示されていた。
また、この美術館は展示にいろいろと工夫が施されていて、例えば、回廊の足下、膝くらいまでの高さがガラス張りになっていて自然光が取り入れられているから展示室特有の圧迫感がない。照明もLEDとハロゲンを使用して1作品ごとに照明を替えているということだ。
作品を掲示するについても、ワイヤでつり下げたりしていないから余計なものが目に入らなくていい。何でもマグネットで壁に貼り付けているということである。
作品はどれもすばらしくて回廊を2往復した。
ただ、そのうちに飽きてきた。どれも似たような印象なのである。モデルや風景が違うだけで、すべて同じ画家が描いたように感じるのである。
モデルの若い女性は美しいし、緻密に描くその技術には感嘆するばかりなのだが、作品に今一つ奥行きが感じられないし、体温やにおいが絵を通じて伝わってこないのである。
だからだろうか、結局、作品を前にして対話や葛藤が生じてこないし、現実をその通りに見せつけられては想像の余地がないから、絵画を見たという味わいにふくらみがないのである。
はなはだ率直だがそういうことだった。ただ、絵画は好きずきだし、自分には写実絵画の良さがわからなかっただけのこと、すばらしい作品が多いから一見の価値はある。
(ホキ美術館外観)
A5判
314頁
ISBN:978-4-88318-560-3
価格:2,640円(本体価格:2,400円)
A4
138
ISBN978-4-88318-063-9
価格:2,200円(本体価格:2,000円)
溶接学会 溶接法研究委員会
B5判
258頁
ISBN:978-4-88318-060-8
価格:13,200円(本体価格:12,000円)