秋葉原日記 (ライブラリ)

丸谷才一『星のあひびき』

 主にこの3年間書きつづられてきた評論やエッセイ、書評などが収録されている。
 評論では独特の鋭い視点が特徴。
 漱石の『坊つちゃん』について、何十何回目かに読んで妙なことが頭に浮かんだとして、「坊つちゃんに優しい「清と云う下女」は坊つちゃんの実の母なのではないかと思った」と述べ、では、なぜこれまでそういう見方が出てこなかったについては、「清を忠義者として見たかったせいだと思ふ」と指摘していて、なるほどこれはユニークな見方だ。
 丸谷は、小説から評論、エッセイなどと幅広く才筆だが、好みから言うとうんちくが縦横にほとばしっている書評が最も面白い。丸谷自身も書評には随分と力を入れているようで、書評そのものに対する持論もしばしば展開している。
 村上春樹訳のレイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』について、「彼はハードボイルド系の探偵小説といふ傍系の作品を文学の正統に位置づけた」とし、「チャンドラーの最高の作は面目を一新してわれわれの前にあることになった」と論じている。
 丸谷の博識ぶりはほとばしるほどだが、一言で切りつけるその斬り味にも感心させられるところで、例えば、カズオ・イシグロ『夜想曲集』(土屋政雄訳)で「短編小説は音楽と夕暮れによく似合ふ」といった具合。
(集英社刊)

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