秋葉原日記 (ライブラリ)

池澤夏樹『セーヌの川辺』

 著者がフランスに移住して3年余り。移住後書き綴られてきたエッセイ集として先に『異国の客』が刊行されていて、本書はその続編で、この2年半ほど雑誌に書かれたものが集められている。
 住んでいるのはパリ郊外のフォンテーヌブロー。
 この町には自分も昨年の7月に行ったことがあるが、パリ・リヨン駅から鈍行列車で小1時間。お城と広大な森があるので有名だが、なかなか美しい町だった。とにかく街路が整っているし、人々がゆったり暮らしているのが見て取れた。
 さて、本書だが、著者の旅は続いている。
 帯広に生まれ、東京で育ち、ギリシャに住み、沖縄に移住し、今またフランスで暮らしている。この間も旅はづっと続いていて途切れることがないようだ。
 だから、旅を重要なモチーフにして日本人が日本語で日本の雑誌に書いているのだが、母語の外にいても日本を語るという視座は変わらない。それもなかなか思索的だし、勢い日本との比較になる場合も少なくないが、それも示唆に富んでいる。
 母語と母国語というくだりがおもしろい。
 日本人にとっては日本語が母語であり母国語であることは自明の理だが、「ヨーロッパに住んでいるとたくさんの言語にさらされる」といい、「母語でない言葉もまた外の国の言葉とは限らない」と述べていてなるほどと思わせる。
 また、ポール・ニザンの『アデン・アラビア』に言及、「あの冒頭の一節で自分がどれほど危ないところに立っているかを教えられた」と語っているが、「ぼくは二十歳だった。それがいちばん美しい歳だと誰にも言わせない。」というその冒頭は、あの頃自分もまたまるで麻疹にうなされたみたいにぶつぶつつぶやいていたのだった。
(集英社刊)

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