秋葉原日記 (ライブラリ)

楊逸『時が滲む朝』

 このたびの芥川賞受賞作である。
 中国人が書いた小説ということで評判になった。日本語を母語としない外国人の受賞は初めてということである。
 浩遠、志強という幼なじみが主人公。
 二人は大学に入るものとて珍しい田舎から揃って秦都という県城にある秦漢大学に入学する。
 そこでは希望に燃えた学生生活が始まる。若手教授である甘凌洲先生の影響を瞬く間に受けて文学に目覚める。白英露という魅力的な女子学生も登場する。
 やがて民主化運動に引きずり込まれ、そして首都の天安門事件へと一気に突き進み、官憲の弾圧によって挫折する。
 ここまでが前半のストーリーで、後半は些細な暴力沙汰で退学処分となった二人は、やがて浩遠が中国残留日本人家族の娘梅と結婚、日本に渡り、東京の中国人社会の中で中国の民主化と向き合う。
 一方、中国に残って事業を興した志強は、成功した実業家として東京で浩遠と再開。他方、天安門事件のあと外国に逃れていた甘先生と白英露も来日。こうしたエピソードがパラレルに展開しながらエピローグへと進む。
 前半は、学生らしい青臭さも一途さがいい。自分にもこんな学生時代があったかと回想もさせられるが、ただ、天安門事件のくだりなどやや緊張感に欠けていた。
 後半は、一言でいえば「民主化よりも家族を養うことが大事」ということだが、結局、この浩遠の書生っぽくも理想を捨てないセンチメンタルさが救いのなのだろう。
 文体は、正直言って古くさく感じた。小説を読むという現代文学としてのレトリックの楽しさも弱かった。
 ただ、書きたいことがいっぱいあるという作者のストレートな姿勢は伝わってきた。これが本書の評価されるゆえんだろう。
(「文藝春秋」9月号所収)

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