秋葉原日記 (ライブラリ)

宇田賢吉『電車の運転』

 この頃は鉄道ブームなのであろうか、たくさんの鉄道本が刊行されているが、これは珍しい電車の運転士自身による著作である。
 著者は、国鉄からJR西日本と40数年にわたって蒸気機関車から電気機関車まで運転士として乗務、主として岡山運転区などで勤務してきた。現在は退職している。
 この経験をもとに書かれた本書は、体験が生きていて、しかも記述が率直でおもしろい。鉄道の仕組みなどにも及んでいて技術的部分も少なくないのだが、それも研究者が執筆した専門書などとは違って平易を旨としているし、それでいて運転士というのはこれほどの知識を持っているものなのかと驚かされるほどの該博ぶりで、それも著者自身によれば「運転士は知識と技能を備えた専門職だ」ということで当然のことのようだ。
 おもしろいのはやはり運転士としての体験の部分だ。テクニックに関する部分などは運転士でなければ書けないことも多くて、これは興味津々とさせた。
 例えば、平坦区間で駅間距離4キロの場合、力行するのはわずか1.2キロで、残る2.8キロは惰力で走っているということである。これなどは鉄道の仕組みを端的に示したものでもあろう。
 このようなエピソードも披露している。つまり、運転士が肝を冷やす怖いものとして、下り勾配をあげていて「運転席に就いて見ると、普通の勾配でもずいぶん急な坂道と感じる印象が抜けない」とし、新幹線の時速200キロで走る運転席から眺めると、あの滑らかな線路がまるでジェットコースターのように憶えた経験を述べている。
 また、すでに引退しているからでもあろうが、とにかく大胆と思えるほどに内容が率直だ。
(中公新書)

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