秋葉原日記 (ライブラリ)

丸谷才一『蝶々は誰からの手紙』

 書評の大御所による書評集。
 著者は、毎日新聞の書評欄「今週の本棚」のグランドデザインを手掛け、自らも書評委員として健筆をふるってきていて、わが国に書評文化を根付かせるとともに、その書評はそれ自体が書評文学と言ってよい内容を持っている。
 自分も丸谷の書評が好きだし、新聞各紙の中では「今週の本棚」が断然おもしろくて、そのためだけに日曜日の毎日新聞は欠かさず読んでいるようなものだ。
 本書は4章から構成されている。「今週の本棚」に執筆した書評集が中心だが、ほかに、イギリスの書評文化のことや日本の書評史のことなどうんちくのある逸話もおもしろい。
 本は好きだから書評を読むのも楽しみなのだが、たいがいの書評は何か目新しい本の紹介はないかという関心で読むことが多く、興味のない分野は書評そのものもさっと片付けてしまうことが通例だが、丸谷の書評は書評そのものにおもしろさがあって、結局、普段は読み飛ばしてしまうような分野に関するものでもじっくりと読み進めている。
 次のような書評がある。
 鹿島茂の著作について、「『妖人白山伯』は本当は傑作になる本であった。そのことは第一章のすばらしい出来ばえを見れば納得がゆくはずだ。人物の設定がよく、趣向が斬新だ。文体も生気に富む。それが佳作にとどまったのは残念だが、贅沢を言ってはゐられない。夜を徹して読みふけったあげく友達に推薦して、一杯やりながら読後感を語りあふのに、これほど向いてゐる新作小説は珍しいのである。」と書き出し、内容を簡潔に紹介したあと、「これはいったい何だらうか。歴史小説でも時代小説でもない。いささか長めの哲学的コントか。」と展開、「始め、中、終りと三分して言へば、中の部分に難があって、その筆の走りが、作者の心と充分つきあふのの邪魔をしてゐる」と結んでいる。
 なお、本書には「毎日新聞書評欄の方針」として書評の書き方というくだりもあって、それによると、「話を常に具体的にして、挿話、逸話を紹介したり、ときには文章を引用したりしながら書いて下さい」「受け売りのできる書評を書いて下さい」「最初の三行で読む気にさせる書評をお書き下さい」などとある。
 自分はこの秋葉原日記で随分と本を話題にしているが、それはもとより書評などというものではなく、単に雑な感想を記しているだけだが、それにしても書評の書き方からは逸脱していて何とも恥ずかしい。
(マガジンハウス刊)

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