秋葉原日記 (ライブラリ)

『エア・リキード―日本における100年の歩み』

 日本エア・リキードの社史である。
 仕事柄随分とたくさんの会社から社史を寄贈いただくが、それらは概して記録性を重視するあまり記述が堅すぎるか、歴史を誇示するあまり自画自賛となっているものも少なくなく、読んで楽しいというものは少ない。
 ところがこの社史は、そういったいわゆる社史臭さがまったくなくて、思わずページをくくらせるおもしろさがある。
 よくぞ保存収集したものだと感心させるほどに写真図版類が豊富で、文章の少ないところがいい。それもとにかく読みやすい。社史というよりも読み物という印象だ。
 レイアウトもしゃれているし、さすがに外資系の会社だとうならせるほどで、記述も和英併記となっている。B4変形228ページというボリュームもちょうどいい。
 読んでおもしろさを感じさせるのは、内容が人物中心の編集となっているせいかもしれない。
 コラムも充実していて、かつて社員として勤務していた大岡昇平とその作品『酸素』のことなどエピソードがおもしろい。
 日本エア・リキードはもとより仏エア・リキード社の完全子会社であり、日本における産業用ガス事業の嚆矢である。
 1907(明治40)年、現在はUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)となっている大阪・安治川河口の大阪鉄工所造船場に酸素製造装置を納入したのが日本における事業の開始だという。言わばここは日本の酸素産業発祥の地である。
 同社が酸素事業を通じてわが国溶接・溶断技術の普及に尽力した功績はよく知られるとおりで、とくに揺籃期において溶接切断実習学校を設立するなどして行った技術者教育は高く評価されよう。
 自分にとっては、帝酸という社名がもっともなじみ深いが、同社はこの100年の間に10回も会社名を変更したという。
 戦時中など、外資であるが故の苦労もあったようだが、紆余曲折を経ながらも同社が今日を迎えたのはやはりエア・リキードとしてのパイオニア精神が脈々と受け継がれてきたからであろう、本書を読んでそういう感想を持った。

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