秋葉原日記 (ライブラリ)

井上ひさし『ボローニャ紀行』

 久々にいい本を読んだという印象。
 この本を読んで、ボローニャに行ってみたいと思わない人はいないだろう。それほどにボローニャの魅力が熱っぽく語られている。
 また、本書はもちろん紀行文だが、同時にボローニャの、あるいはイタリアの政治と社会と文化を紹介し、日本との比較を論じてもいる。
 そして何よりも、ボローニャに対する井上の愛情が、満天に降る星の如く一杯に感じられて好ましかったし感動もした。
 ボローニャにはドミニコ修道会の総本山があるのだが、実は井上は中学高校と仙台のドミニコ修道会の施設で育っていて、ボローニャには格別の思い入れがある。
 で、井上はボローニャに恋いこがれて30年間も机上の勉強を続けてきたのだといい、そしてそのボローニャの地をついに2003年12月踏むことができ、まとめたのが本書というわけである。
 ボローニャは、イタリア北部、フィレンツェとは峠を挟んだ反対側に位置する人口39万の古都。日本でいえば県庁所在地ほどのサイズのこの都市には、37の博物館と映画館50、劇場41、図書館73あるのだというから驚く。
 何しろボローニャの魅力がふんだんに紹介されているのだが、一つ感心したのは、ボローニャ方式とも呼ばれる社会的協同組合のこと。
 例えば、映画好きが集まって設立したフィルム修復の組合会社の場合、行政や銀行や市民の援助で事業を育て、今やチネチカと呼ばれ世界でも代表的なフィルム修復センターに成長するとともに、旧たばこ工場跡地に建設されたセンターには、フィルムライブラリーから三つの映画館、三つの専門図書館、ボローニャ大学の実習スタジオなどが併設される映画の一大拠点となっているのだという。
 本書を読むと、ボローニャは自治都市と称されているように、中央政府とは事ごとに一線を画し、市民による手作りの都市と言えるようだ。
 本書は二つの意味でやさしい。一つは表現がやさしいし文章がわかりやすいこと。内容は示唆に富んでいるし、難しいことが書かれているし、彼我として日本のことを考えさせられるのだが、それが堅苦しないのだ。
 もう一つは井上の気持ちが率直でやさしく、そしてボローニャに対しやさしいこと。ボローニャを知るために、膨大な文献を渉猟したようで、それは驚嘆するほどだが、それもボローニャを理解しようという姿勢なのだろう。
(文藝春秋刊)

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