秋葉原日記 (ライブラリ)

川上未映子『乳と卵』

 このたびの芥川賞受賞作である。
 著者は、1976年大阪府生まれ。歌手でもあり、昨年初めて書いた小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』で芥川賞候補となった。本作も含めなかなか評判もいいようで、多彩な才能が注目を集めている。
 不思議な味わいの文章だ。関西弁で語られる地の文がやたら長いのだが、これが独特のリズムもあって苦にならない。こうした文体を作り上げたことは、これは作者の力量だろう。
 話は至って簡単だ。
 語り手のわたし。独身で東京・三ノ輪のアパートに住んでいる。
 ここに、大阪にいる姉巻子とその娘緑子が2泊3日の予定で上京してくる。
 巻子は大阪・京橋でスナックホステスをしている。40歳。夫とは娘が小さいころに別れたまま。
 緑子は初潮を迎えようかという年頃。
 この親子の間ではこの半年ほど会話が成立していなくて、巻子が話しかけても緑子は小さなノートでいちいち筆談するだけだ。
 夏の盛り、二人の上京の大きな目的は巻子の豊胸手術。平べったい胸を膨らましたいのだという。
 親子の会話がなくなったのは、お金のことですごい言い合いになったときに「なんでわたしを生んだん」と言ってしまったときからで、緑子にしてみれば口をきけばケンカになってしまうということらしい。豊胸手術にしたって母としてはもっとお金が欲しいからで、それも自分を育てるためだろうと悩む緑子なのである。
 女3人、生理のことなど赤裸々でもあるのだが、それもおかしくも哀しい。また、思春期を前にした緑子の悩みや反抗も、内面のやさしさがわかってほっとする。
 物語は、終盤に思いがけないやりとりがあって2泊3日にきっちり収まっている。
(文藝春秋3月号所収)

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